横須賀日記

■昨日7/14、横須賀美術館に行ってきました。目的はコレ。

開館記念《生きる》展 現代作家9人のリアリティ
2007年4月28日(土)〜2007年7月16日(日・祝)
アーティスト:石田尚志/石内都/岡村桂三郎/木村太陽/小林孝亘/舟越桂/清水慶武/真島直子/ヤノベケンジ


7月14日(土)

  • ヤノベケンジプロデュース「The Day of TORAYAN」
  • ジャイアント・トらやんパフォーマンスイベント:出演/MAS・Pasadena

http://www.yokosuka-moa.jp/top.html

キリンアートスペースの「ルナ・プロジェクト - 史上最後の遊園地」およびレントゲンクンストラウム「史上最後の映画館」で見て以来、ヤノベケンジ*1が大好きなんですが、ふとこの二つの個展ていつだったっけ、と思って調べてみたら1998年だった。9年前かー。思えばこの頃私の中に現代アートブームが到来してたんだった。明和電機にはまってたのもこの頃だったし(97〜99年、展覧会などに行きまくってた)、奈良美智会田誠なんかを知ったのもこの頃だった筈。昭和40年会とかね…ううん懐かしい。
それ以来、めちゃくちゃ積極的に追いかけることはなかったにせよ、メディアに名前が出れば気にするアーティストでありつづけた、憧れの人だったんでした。今年の2月ににしすがも創造舎演劇上演プロジェクト『アトミックサバイバー―ワーニャの子供たち』という芝居を、わざわざヤノベケンジゲストのポストトークつきの回を選んで観に行って、そこで初めて「森の映画館」という作品を知り、ヤノベケンジ熱が再燃していたところ。

■さて。イベントの整理券配布が11時から、というわけで、雨の降る中3時間以上かけて横須賀へ。横須賀初上陸。海沿いにある美術館、荒れる海にびしばしと台風の気配を感じる。
岡山での明和電機個展開幕を狙うかのように日本に到来した台風に、「嵐を呼ぶ男土佐信道*2が呼んだんじゃねえの、などとぶーぶー言ってたんですが(や、もちろん社長に罪はないんだけど)、この「嵐」が今回のヤノベケンジの展示にとって重要な意味を持っていた、という偶然の巡り合わせが後に発覚。

■明るくて綺麗な美術館。

整理券を無事確保した後は早めにランチ。昼間っからアルコール飲んでしまいましたようははー。キール好き! 海を望める窓際の席で、落ち着いて食事を楽しむ。

美術館界隈には何もないため、ひとつしかないレストランあっというまに満席。これは…日によってはお昼食べられない人も出てくるんじゃないか…?

■美術館入り口から中に向かう途中で、地下の展示室が見下ろせる。右にトらやんの隊列が! 左にジャイアントトらやんが!! 一気にテンションマックスになる私。
「開館記念《生きる》展 現代作家9人のリアリティ」ですが、ヤノベケンジの他は船越桂がやっぱり素敵だった。この人の作品は透明感があって好き。

■そして衝撃的だったのが初見だった木村太陽。
体に掃除機が接続されてる人間の作品。接続ていうか、むしろ一体化というか。ガムテープでぐるぐる巻きにされてる顔から掃除機の吸い込み口が伸びていて、肛門の先に掃除機本体が。タイマーで時々思い出したようにゴーと吸い込む音を立てる。女のマネキンの顔にビニール袋が被されていて、これもタイマーで時々「呼吸」する作品。呼吸するたびビニール袋がしぼんだり膨らんだり、しぼんだときだけ半透明のビニールの中に女の顔が透けて見える。一見何だかわからないが、よく見たら四角く切り取られた壁のなかにみっちりと坊主頭の男のマネキンが詰められている作品。作品見て鳥肌立ったという経験を久々にした。しかも感動の鳥肌というよりもむしろ、ぞぞっと怖い思いをしたときの鳥肌に近い。閉塞感というよりもむしろ「窮屈さ」、その気持ち悪さから目が離せなくなってしまった。
やばいまた好きな作家見つけちゃったよ…!

■そして本日のイベントのひとつめ、アーティストトークとトらやんのパフォーマンス。企画は申し分なかったんだけど、美術館スタッフの段取りの悪さと仕切れなさに正直びっくりした。集合場所に現れたヤノベケンジを紹介もせずいきなり企画スタート。しかも「傘持って再集合してください」って、今更言うのか! どーなんだそれ。
雨天中止の筈だった、屋外でのアーティストトーク(定員30名)ですが、「この場所で展示をする意味を説明するためにも是非見て欲しかった」という作家本人の希望により、土砂降りの中決行された三軒砲台見学ミニツアー。足元の悪い山道をしばし歩く。ああよかったパンプスとか履いてなくて…! そんなこんなでちょっと集中して説明を聞いてられなかったのが残念。
美術館に戻って場所を展示室に移すが、そのとき整理番号が若い人ほど前に行けるようにとカウントダウン方式で入るように誘導、と思いきや途中から「適当に入ってください」。なんだそれ整理番号の意味あるのか。あまりに段取り悪い対応が続くため、客の方にも不機嫌な雰囲気がもくもくと。
それからは、200名をジャイアントトらやん*3の前に集めてしばしトらやんについて説明するヤノベケンジ。彼は展覧会をするとき、その場所にもっとも相応しい形での展示を心がけるという。それは展示方法というよりも、ずっと旅を続ける作品たちが、今ここで展示される「意味」を大切にするということ。今回は海沿いの美術館というのが大きな意味合いを持っていて、絵本「トらやんの大冒険」のうち、トらやん族が船で新天地へ向かうシーンにあたるのだという。展覧会を観に来た観客は、船に乗り合わせたトらやん族。外は、絵本にあるようにまさに嵐。絵本の中でトらやん族は太陽を取り戻すべく必死に叫ぶわけだけど、それをやってくださいとヤノベケンジ。「ライブみたいにやります。我らの上に!(マイクを観客に向ける)」観客「太陽を!」。繰り返すうち、妙なラップのようなリズムがついていって(馬鹿だ…)会場のテンション最高潮、ついに火を噴くトらやん。火炎放射! 最前列で見てたってこともあるけどすっごい迫力、大興奮!!! つうかマジ熱い、ガソリン臭い!!!
この作品、消防法的にはどーなんですか…?

■興奮さめやらぬまま、次のイベントまで再び展覧会へ戻る。「青い森の映画館」、2月に初めて見たとき泣いてしまったのだけど、今回もまたうるっと涙ぐむ。繋いでいく命の可能性にかけた最後のメッセージ、親が子どもに向けて強烈に発する、生きることへの願い。チェルノブイリへ行ったこと、そして自分も人の親となったこと、これはきっとヤノベケンジという作家を大きく変えたのだろうと思う。

■次はPasadenaというバンドのミニライブ。(このときの客入れの対応も酷かった美術館スタッフ。頑張ってくれよ…!) ヤノベケンジの映像作品などに欠かせないバンドなんだとか。すっごく良かった! 首を振り目をぱちぱちさせ腕をぶらぶら動かしながら踊るジャイアントトらやんがラブリーすぎて母親のような心境になる。当のアーティストは会場の端っこの方でずっと楽しそうに体をゆらゆら揺らせてました。
ところでこのバンドでベースをやってた方が野間口さんにすごく似てた…! 特に横顔とか「えっ野間口さん??」てくらいそっくりで。淡々とベースを弾く姿に途中から目が離せなくなってしまった。野間口さんが何か楽器をやるとしたら、ベースが似合うと思います。(何の話だ)

■その後サイン会でサインを貰い握手してもらって幸せいっぱい、しかし幸せに浸っている場合じゃない、雨に加えて風も強くなりだし海がますます荒れてきた横須賀を急いで後にする。だいたい7時間くらい美術館にいた計算。我ながらすげえ…!
品川駅で、期待せずに入った店で思いがけず美味しい夕食にありつく。食べすぎとわかってましたが食後にフライドポテトとか追加注文しちゃう私たち(しかも完食)。ビールもいい具合に回って、その日はぐっすり眠りました。心地よい一日のシメは心地よい睡眠。

■私はこのヤノベケンジと、明和電機土佐信道がアーティストとしてほんとに大好きなわけですが、今回見てはっきりと真逆の作家なんだなとわかって興味深かった。いろいろ挙げたらたくさん感じたことはあるんだけど、強烈に思ったのが「繋げる」ものの相違。土佐信道はおそらく「遺伝子を繋いでいく」ことに興味を持っている作家、ヤノベケンジは「命を継続させていく」ことに興味を持っている作家。似てるようでいてぜんぜん違う。
岡山の明和電機個展を見に行ったときに、そのことをもっと深く掘り下げて考えるかも知れません。
そして今、猛烈にコレに行きたくなってるわたくし。ピンチ…!(フトコロが)

ヤノベケンジ展 トらやんの世界
2007年8月1日(水)〜9月24日(月・祝)
会場:霧島アートの森(屋内展示室)
http://open-air-museum.org/ja/art/exhibition/yanobekenji/

*1:http://www.yanobe.com/index.html

*2:雨や嵐に見舞われがち。去年の鹿児島での個展も避難勧告が出るほどの台風に見舞われている。

*3:ジャイアント・トらやん:2005/720cm×460cm×310cm/アルミニウム、鉄、真鍮、FRP、発泡スチロール/巨大化したトらやん人形。子供の命令にのみ従い、歌って踊り、火を噴く子供の夢の最終兵器。http://www.yanobe.com/aw/aw_g_torayan.html