猫のホテル『イメチェン〜服従するは我にあり』

猫のホテル『イメチェン〜服従するは我にあり』
2010.12.16〜29
下北沢ザ・スズナリ
脚色・演出:福原充則
作:千葉雅子
出演:千葉雅子中村まこと/森田ガンツ市川しんぺー/佐藤真弓/池田鉄洋/村上航/いけだしん/岩本靖輝/菅原永二
http://www.nekohote.com/next_top.html

初日含めて3回観劇。あと2回観るよ。
もう、ちょう面白かった!! 久しぶりに、余すところなく大満足な芝居を観た気がします。千葉雅子らしいストーリーに、福原充則らしい脚本と演出、でも細かいところは猫ホテのやり方に沿っていて、猫ホテらしい、でも猫ホテとして新しい作品になってました。
猫ホテはここ数年ずっと欠かさず観ているけど、役者もストーリーも私好みで大好きなのに、演出がもう一歩残念な感じで、毎度毎度「あと一押しなんだけど」感を感じる劇団でした。福原さんの演出はその「あと一押し」を押し出すことが出来る筈だと確信していたので(親族代表で千葉脚本・福原演出の作品を観てから、この2人の組み合わせは絶対に相性がいいと思っていた)、今回はほんっとに観る前から楽しみで仕方なかったんだけど、期待以上。ああもうほんと、細かいところまで大好き、今回の作品。










土方から土建屋の社長になった男・丸岡が、チャンスを掴んで政治家になり、政治の世界をどんどん上り詰めていく。丸岡の愛人・竹村も、秘書として共に金と権力の世界を渡っていく。その2人に絡むのが、竹村のことを認められない丸岡の娘と、丸岡に恨みを抱き、彼を失脚させるべくスキャンダルを探る2人の男女、丸岡に仕えながら世の中の仕組みを学ぼうとする純朴な若い秘書、などなど。主演は中村まことと佐藤真弓だったけど、出演者全員、キャラの立ち具合も物語への絡み方も申し分なくて、ちゃんと個人個人に物語があってスキなく楽しめる。五・七を基調とした大袈裟なセリフ回しや、思いがけない身勝手(でも見事に筋が通っている)論理、大掛かりで工夫の凝らされた舞台美術、本当に雨を降らせたり紙ふぶきを「客席に」降らせるサプライズなんかはピチチ5やマンションマンションなんかでお馴染みの、福原さんの得意技。福原作品ではアドリブがまったくないんだけど、今回はシーンによってはかなり役者の裁量に任されていると思われるシーンが何箇所かあって、そのへんは猫ホテらしい自由さを楽しめる。(やはり中村まこと菅原永二が最強にフリーダム) そして猫ホテは役者みんな上手いから安心して観てられるよ。
イケテツ演じる宇佐見青年の物語がすごく好きでした。スキャンダルの責任を押し付けられて逮捕・服役という辛酸をなめて、最後には丸岡の選挙事務所で焼身自殺して、結果的に丸岡を孤立無援の状況に追い込む。彼は非常な野心家ではあったけれど、野心の向かう先がカネや権力ではなく、将来弁護士になったときに役に立つ「世の中の仕組み」を学ぶことであった、というあたりの意外な純朴さ、そしてその熱心さと歪んだ純朴さがアダになって悲劇を呼び込みさらには相手を巻き込むというカタストロフ。『イメチェン』は、丸岡とその愛人のカネと権力と愛の物語であると同時に、宇佐見青年の悲劇の物語でもある。
「謝る権利があるのは主人公の俺だけだ、主人公の謝罪というものを見せてやる!」という滅茶苦茶なオチ。でもラストは、1人の男とその愛人が変わらず寄り添っている。何人かの人が死に、時代も状況も変わっていく。でもこの2人はきっと変わらない。そんなラストシーン。


…ところで菅原永二は、完全に猫ホテの女形になっちゃいましたね…女装するとなんであんなに綺麗なんだろう…