明日図鑑『砂の王国』

MITAKA"NEXT"Selection7th.参加作品『砂の王国』
2006.10.19(木)〜10.22(日)
三鷹市芸術文化センター星のホール
作・演出:牧田明宏
出演:大久保佳代子/山口奈緒子/牧田明宏/遠藤雅/中谷竜(ラブリーヨーヨー)/仲坪由紀子
http://www.ashitazukan.com/index_f.html

素晴らしかった。明日図鑑はやはり相当好きな劇団です。10/21、夜公演。










前作『岸辺の亀とクラゲ』は、主人公の部屋に他人が上がり込んでくるところから物語が始まり、その後の「追い出したいのに追い出せない」「みんな身勝手に自分の人生に踏み込んでくる」ことの恐怖がじわじわと観客をイヤな気分にさせていく感じで、盛り上がる部分が前半にありそれを決着づけていくような展開でしたが、今回はごく日常なのにそこに植わっている「なんとなくイヤな感じ」を、はっきりとそれと分からない程度にちょっとずつ見せていき、ある部分を境にその「イヤな感じ」の正体が一気に判明してストーンとラストへ、という、後半一気に盛り上がる感じで、途中ほんとに観てるのがしんどくなるような展開でした。でも最後観終わったあとの疲労感は実に清清しいというか、「ああヤな芝居観せられたなコンチクショウ!」みたいな。面白かったというか「なんて芝居作るんだ牧田明宏という作家は!」という驚きに近い感想。その「イヤな感じ」の正体が判明した瞬間(具体的には妹の「お姉ちゃん、またごめん」の一言から、妹の借金を主人公の旦那が返済していたことも、そのせいで旦那が自殺していた経緯も、そしてその旦那の自殺はひょっとしたら他殺かもしれないということも、そしてそうだとすれば旦那を殺したのは主人公である妻だということも一気に見えてくる)、鳥肌が立ちました。
登場人物たちはみんな身勝手で自分のことしか考えていなくて、でもそれを取り繕いながら毎日を送っている。主人公は夫を殺し、雑誌記者の死体を遺棄したことを隠すために小さな偽りを重ねていき、綱渡りのような危ない橋を渡っている。つつけばすぐに崩れる砂上の楼閣、まさに「砂の王国」の住人たちの物語。警察が「ご主人の自殺の件でお話を」と主人公を訪ねるシーンで物語は終わりますが、主人公はおそらくその後この刑事を殺すか何かして、なんとか自分の砂の王国を守ろうとするのだろうと思わせます。余韻までもがイヤな感じに怖いラストシーン。
主演の大久保佳代子はやっぱり抜群に雰囲気があります。平凡で弱い存在の主婦、でもふとした瞬間にぎらっと雰囲気変えて怖くなる。中坪由紀子のイヤな感じの存在感がまた最高でした。冒頭、彼女が相手の迷惑おかまいなしに自分のしゃべりたいことをしゃべりまくるという鬱陶しいシーンがけっこう長く続くのですが、このシーンで物語全体を覆う「なんともいえずイヤな感じ」が決定付けられる。「まあ、悪い人じゃないんだけどね、ちょっとおせっかいなのよね」という、どこにでもいそうな主婦を好演してたと思います。
ところで劇作家・牧田明宏は大好きですが俳優・牧田明宏も相当好きです。ああ、もう、あのリアルにアブナイ感じがたまんないよ…!! 前作同様、出演シーンはそんなに多くないですが、出てきたらとりあえず目がクギヅケ。前作の、主人公にストーカー的好意を寄せる教師役とか、ほんっと「うわこの人ヤバイ」って思わせた。今度俳優として出演する舞台があるようで、ちょっと気になります。
明日図鑑、おそらく人によって好き嫌いのはっきり分かれる劇団だとは思いますが、「清清しい不快感」を見せてくれる稀有な劇団だと思います。ちょっと暗くてでもユーモアも忘れない、そんな舞台がお好みの方には是非オススメしたいです。