ニッポンの河川『トビウオ人間VS形の無い何か』

ニッポンの河川旗揚げ公演『トビウオ人間VS形の無い何か』
2006.12.18〜21(19日休演)
阿佐ヶ谷名曲喫茶ヴィオロン
作・演出:福原充則
出演:森谷ふみ/光瀬指絵
http://jriver.exblog.jp/

21日、楽日の20:30からの回を観てきました。
あ、ヴィオロンに行く前に、hilocoさん*1の阿佐ヶ谷情報を元にヴィレッジバンガードダイナー*2ハンバーガー食べたんだった。チーズバーガー。美味しかったー。次回はビールによく合うという黒胡椒とベーコンのやつ食べたい。
以下、簡単に感想をば。

見終わった後、うわあやっぱり福原作品好きだなあと思った。すごく良かったです。ものすごく狭い空間で、たった60分ほどの時間で、すごい密度を感じたステージ。もう一回観たかった。福原作品は、展開がわかった上でもう一回観るといろんな発見がありそう。
どんな場所で(だって名曲喫茶って…)何をやるのか、コントなのか芝居なのかそれともまた別のものなのか、まったくわからない状態で行ったわけですが、60分ものの一本芝居、でもその一本の中で様々な登場人物や場所や時間が入り乱れる構成は、短いコントを積み重ねてかき混ぜたような感じ。広くない喫茶店の真ん中、柵で仕切られたステージは物凄く狭いんだけど、中央に置かれた自転車と二組のテーブルセット、主に役者たちが自分で操作する照明や音楽、そういったものを使っての場面転換や人物の入れ替わりが混乱することなく伝わって来るから、やっぱり構成が上手いんだろうなと思う。
締め切り破りの常習犯である漫画家(光瀬指絵)とそのアシスタントのヤマメ(森谷ふみ)が自転車で深夜の街から街へと疾走しながら、ネタのアイディアを絞り出しつつ現実逃避しつつ、現実や妄想や夢の中で様々な人物に出会う。最後、漫画家先生のことは人間として嫌いだけれど、作品は好きだからこれをネタにしてください、と言ってヤマメは自ら車に轢かれて自殺してしまう…という、主軸になるストーリーだけ書くと湿った話のように見えますが、そこは福原節でほんとに湿っぽくならないうちに笑いに掬い上げて、でも最後はきゅんとしてちょっとチクッと痛くて、という匙加減が私は好きでたまらない。
自転車で疾走、といってももちろんステージが狭いので止まってる自転車をぎこぎこと漕いでるだけなんだけど、セリフの持つテンポと場面転換のスピード感でほんとに風を感じさせてくれるくらいの疾走感。60分あっというまでした。福原作品はいつも、セリフのテンポとセンスがすごくいいし、場面転換はかっこいい。
いろんな登場人物とストーリーを2人の役者が演じ分けていたわけですが、パンク気取りのシド(ほんとは「カズくん」)とその恋人ナンシー(ほんとは「マチコ」)の話が特に好きだった。マチコに「私はあなたの音楽が好きだけど、他の誰にも伝わってないよ?」と才能のなさを指摘されたカズは、パンクを諦め実家の前橋に帰り、別れたマチコに手紙を書く。「君の事はきっとそのうち忘れるだろうけど、少なくとも今はまだ君のことが懐かしい」。意味もわからず歌っていた曲を日本語訳したらかなり過激な曲だったことがわかり、「僕はこの曲で君に好きだと伝えたかっただけなのに」。「だから意訳しました。♪俺は神様なんて信じない、俺はアナーキスト、あと君が好き」。カズのキャラクターはかなり極端なんだけど、その極端さも含めてものすごく純粋で正直で、でもそんなキラキラした青い春ももう終わり、そんなラストシーンにきゅんとなった。この後年月を経て2人はお互いの顔も思い出せなくなっちゃうんだろうけど、でも今はまだ好き。そんなカズの感情のリアルさに思わず感情移入してしまう。
福原さんは、「今、ここにある関係性」、将来どうなるか、そんなことはわからないけれど、今一番大切な人間関係そしてそこから発生する感情、そんなものを描く作家なんだな、と思いました、今回。

  • 全編通して出てくる地味な地名に笑。「野方」「赤羽」「江古田」「亀有」「前橋」…
  • 「野方とは、地方から出てきたミュージシャンが不動産屋に高円寺と騙されて住む街。高円寺から徒歩25分、実は野方駅から徒歩5分」
  • 「私は男尊女卑の男が大好きだった」「私は男尊女卑の男が大好きだったがやられっぱなしは嫌いだった」。笑。
  • 「そしてそれから3年が経った」「それから20年が経った」。数分の大河ドラマ
  • アシスタントのヤマメが自ら車に轢かれるシーン、ミニカーとお人形で表現。くるくる回転しながらゆっくりと飛ぶヤマメ(人形)。「でも、そこでやってちゃこっち側のお客さんに見えないわ」。まったく同じシーンを場所を変えてもう一度。場所によってはシーンがものすごく見づらいという会場の欠点を活かしたコネタに思わず笑。
  • 劇中使われてる曲がどれも良かったなあ。

2007年は一年中芝居、なんだそうです福原さん。ますます期待大。とりあえず春の『憂の喜劇』がちょう楽しみ。