若手演出家コンクール公開審査会
3/5(月)に行われたものに行ってきました。各作品について9人の審査員*1が一言ずつコメントしていき、最後に記名投票によりグランプリを決定するスタイル。
「客入れの音楽が何故東儀秀樹…?」という不思議な雰囲気の中、「劇」小劇場は超満員。しかし一般客はさすがにあんまりいなかったようで、気付いたら私の席はある出演劇団の役者さんたちに3方向囲まれてました。なにこの異常に緊張するシチュエーション…
審査会は「前、審査員10人で5対5で割れて大変だった時があったんだよ」なんて話で和やかに開幕、「一言ずつコメント」なんて言ってそれで済むわけがなく、時折演出家に質問したりしながらのけっこうアツいトークが繰り広げられ、一通り終わったらすでに開始から2時間ちょっとを経過しておりました。5分の休憩を挟みいよいよ投票、結果発表、表彰。7日間に及ぶコンクールのすべてが終了したのは21:40近かった。これだけの長さの芝居を一本観たらよっぽど面白い内容のものじゃないとダレてしまいますが、この審査会は飽きずに楽しく拝見することができました。一つの作品について、こんなに好き放題意見を言い褒めまたダメ出しし、なんていうのを生で聞く機会ってそうそうないですからねえ。面白かった。
一次〜最終審査までの経緯や投票結果等は若手演出家コンクールのサイトに載ってるのでそちらをご覧いただくとして、以下、審査員のコメントなどちょこっとメモ程度に。
■江尻浩二郎/怪物が目覚める夜ゴールデン『人魚まる裸みだれ髪』
- 日本的なものを武器としていつつ、それともまた違ったものも取り入れたりとてんこもり。整理されてない印象。
- バイタリティーがある。
- 欠点の見えやすい芝居のつくり。ストーリーがつまらない。
- ドタバタした展開からシリアスストーリーに移るときの、役者の演技の質がもうひとつ。
- よくある話を使いつつ(「羅生門」と同じ、死人の髪を抜く女と引剥ぎの話が使われてる点など)「らしさ」をどれだけ出せるか。出せているとは言いがたかった。
- このコンクール形態、劇場環境で和太鼓を使うという勇気は買う。
- 太鼓でセリフが聞こえないのが難点。
- (上記意見を受けて)別にセリフなんて聞こえなくても構わない。
- 役者が太鼓に負けてしまっている。
- 「どう客に見られているか」という点から舞台空間を考えられていない。装飾過多で芝居が小さく見えてしまってもったいない。
■西村太佑/グワイニャオン『ないでこ』
- 「なんとなく」纏めた感じ。キャスティングの狙いがわからない。
- どこか欲張りすぎてしまって纏まっていない感じ。
- 今回一番面白かった。
- 27人のキャストを使ったのがすごい。
- パネルを使った舞台装置・演出が面白い。
- 「新しい」ところが欲しい。ガツンとした感じが足りない。
- かいつまみ方がうまくない。
- 物語の理屈がわからない。
- 毒が欲しい。
- 他の出品作にも言えることだが、一時間の時間制限に合わせてカットしているのがわかってしまう台本。つじつまが合わない部分が出てきてしまっている。
- 登場人物たちが、何を守り何を失ったのか、それが見えてこない。
■福原充則/ピチチ5『反撃バップ!!(改造)』
- 分かりやすすぎて生々しく感じない。分からない芝居が観たい。
- オムニバスと言いつつうまく繋がりすぎていて厳密に言って「オムニバス」ではない構成。
- 30過ぎてのバイト生活なんて、舞台人の生活そのもので身につまされる。
- 「バイトの時給が上がる音がする」は名セリフ。
- 等身大すぎる。
- 整合性がある構成。長所であると同時に短所でもある。
- びっくりした。
- 役者が皆巧い。完成されている。
- 大爆笑したし、客席もコンクール中一番熱狂していた。
- 完成された作品に、このコンクールで賞を与える意味はどうなのか?
- 面白かった。現代的な話題性がある(フリーターの話など)。
- 「コント」の部類のもの。「オムニバスの演劇」といっていいのかどうか。
- 「演劇」として完成された笑い。
- シティボーイズの100倍面白い。
- うまく出来過ぎ。非の打ち所がない。
- 生々しいイヤな話だけどさらっとやっててそこがかえってまた生々しかったり。
- このままミュージカルが作れちゃうような構成。珍しくて楽しい。
- けっこう切なくリアルだけど、そこを笑い飛ばすところがいい。
- コントのようにやりつつちゃんとコメディになってる(演劇になってる)。
- コンクール参加作じゃなくて招待作品なんでは? というほどの完成度。
- 演出に応えられる役者を集められたことが面白くしている。
- 今後、もっと違うスタイルをつくって行くべきでは。ハイテンションを乗り越え、もう一歩進むことができる。
- 一時間の上演時間制限がプラスに働いた。
- 「コント」ではなく「新しい芝居」という印象。
- 今後、ブレヒト作品の勉強をするといい。共通点がある。
- 人間の孤独から世界に目を向ければもっと作品世界が広がるだろう。
■山口茜/トリコ・Aプロデュース『豊満(とよみつ)ブラウン管』
- 難解だけど世界観がちゃんとある。
- 他の人に演出させてみたい、と思わせる。その点で演出家として作業が足りていないと言える。
- 今回のコンクールで、唯一、完全暗転した芝居だった。
- 東京は演劇が死んでしまった。京都でこのような演劇が行われているのは実に豊なこと。
- 二次審査時の作品(同じ『豊満ブラウン管』)ではブラウン管を舞台装置として用いていたのが、今回使わなかった。これは作家としての成長。
- 役者が弱い。
- ほとんどわからなかった。シュールレアリスムでもピンとこなければ引き込まれない。
- 「体に穴が開いている」と言いつつ、役者が「穴が空いている」ようにぜんぜん見えない。そう「思えない」芝居を作っているようでは、演出としては疑問。
- これは男の「1人の」芝居なのかと理解した。自分だったらそのような演出をつける。
- 作家としては良し。演出家としては、もっと「画(絵)」の見せ方を学ぶべき。
- 将来性はイチオシ。
- シュールを観客に分からせるヒントをちゃんと与えられていたか疑問。
■山田能龍/東京サギまがい『まっすぐな道でも嬉しい〜うーん、なんていうか…へ、Hey!〜』
- 演出家の世界を膨らませるよりも、ストーリーにこだわりが強い作風。
- 役者の個性が野放しになっている感じ。それは演出家としてはマイナス。
- 見る演出家ではなく、一緒に役者として舞台に立ち、芝居を引っ張り、それにより才能が膨らんでいくタイプの演出家。
- 2人の役者のキャリアが芝居を支えた。
- コンクールの対象としてはどうか。もっとえぐるような感じが欲しい。
- 素直すぎ。悪い人が出てこないなど、毒がない。纏まりすぎ。いい話すぎ。
- 納めるべきところに納めちゃうあたりが芝居として弱い。
- 劇団員を使ってるのに(プロデュース形式じゃないのに、の意)、多くの役者が「その他大勢」に見えてしまうのが残念。劇団員の中のヒエラルキーを感じさせてしまう。
- テクニックは申し分なし。
- 始め笑いから入り、「泣かせる話」へと持っていくために娘を殺してしまう、というストーリー運びが安易すぎる。テレビドラマや映画に勝てとは言わないけど、「演劇」が演劇らしさで勝負するならこの手法はナシ。
- セットがよく出来ている。
- (上記意見を受けて)今回のコンクール中一番気持ち悪いセットだった。プロっぽく作ってあるけど都合よく省略されていたり、都合のいいバランスになっていてそれが芝居のぬるさに繋がっている。
- 優しい台本の中で詰めの甘さを感じる。
- ウェルメイドに纏まりすぎ。
- すべて都合が良すぎて画づらの面白さを殺いでいる。