庭劇団ペニノ『笑顔の砦』

庭劇団ペニノ14th garden『笑顔の砦』
2007.2.22(木)〜3.4.(日)
下北沢駅前劇場
作・演出:タニノクロウ
出演:マメ山田/久保井研/飯田一期/山田一彰/山田伊久磨/瀬口タエコ/五十嵐操 他
http://www.niwagekidan.org/index.html

3/3(土)昼公演。
ペニノを観るのはこれで3作目となりますが、前2作とまるで雰囲気の違う作品の仕上がりに驚いた。タニノクロウはこういう芝居も書けるんですね。
舞台の左半分が漁師のタケ(久保井研)の部屋、右半分が、夫に先立たれた孤独な老人・キク(マメ山田)の部屋。ひっそりと越してきた隣人の存在にタケはしばらく気付かず、二つの部屋の住人はまったく交わることなく日々の生活に追われている。そしていつのまにかひっそりといなくなっていた隣人に、タケはやっぱりしばらくの間気付かない。独り身の40男と孤独な老人と、その老人を孤独に介護する介護士の女性(高橋操)。二つの部屋では二つの生活がそれぞれ存在していてお互い交わることはない。それでもタケの生活は隣人の存在によって変化を見せる。

ものすごく緊張しながら観ていた。緊張するようなシーンはないのに。淡々と繰り返す日常の中に介護士多喜子の孤独や無力感、キクの喪失感、キクに体をまさぐられている多喜子の姿をたまたま目撃してしまったタケの動揺と苛立ち、そのタケが急に冷淡になったことの理由がわからずどうしたらいいのかわからないでいる弟分たちの不安感。それぞれに小さな緊張を含んでいて、舞台全体をピンと張り詰めたものにしている。
キャストには絶対の自信がある、というだけあり、今回もそこが舞台であることを忘れてしまうくらいリアルな世界を、役者が見事に表現していたように思う。セリフを言いながら魚を三枚下ろしにする久保井さんの集中力が凄い。若い2人の漁師(飯田一期・山田伊久磨)も、無駄にはしゃいだり苛々したり怒ったり泣いたり、表現が繊細でほんとに引き込まれた。伊久磨さん、観たの2回目でしたが前回観たときは怪人社ライブでの「ロイヤルホスト」だったんだよな…*1飯田さんがまた巧い。こんなに巧い人を前回公演ではずっとベッドに寝てるだけの患者役として使うなんて大胆だなあペニノ。そして今まで体の小ささを生かしたエキセントリックな存在として登場していたマメ山田が、「普通の」老人を違和感なく演じていて見事。(女役なんだけど。)
前2作よりも弾けた感じの笑いどころも豊富で(若者たちとタケさんが愛おしくてならない)、重いテーマも重くなりすぎず、でもやっぱり見終わった後にズシンと堪えて、という、シンプルながら多彩な色を持った作品、という印象でした。

7月に大阪公演ありますが、この「冬」という舞台設定をどうするんだろう、というあたりが気になる。「冬」というのがこの作品の中でリアルさを演出するキーになってると感じたんだけど、夏に冬の芝居をするというのは、私的にはナシだと思ってるので…。季節に合わせて「夏」という設定に変えたりもするのかなあ。

*1:源氏名「殿下」のホストがお客をおもてなしするというシチュエーションの皇室ネタコントをやってたのです。