演劇キック『レミゼラブ・ル』

7日のマチソワ、千秋楽の9日を観てまいりました。
とりあえず今、私の頭の中でラヴェルの「ボレロ」とミスチルと、ジャベールの歌う「ジャン・バルジャンから目を離すな」の歌がぐるぐると。
千秋楽では、二回目のカーテンコールで作演家がちょこっと挨拶を。「今回は好きなことが出来て(やりたいことが出来て、だったか)幸せでした」というようなことを話してました。こっちもなんとなく嬉しくてニコニコしながらその挨拶を聞いておりました。いい千秋楽。
初日観たときは、面白かったんだけどもうひとつ乗り切れない感じがしていたこの舞台ですが、あとの3回はほんとに楽しく観られた。業の深さに罪を負い続けなくてはならない男、信じていた正義の崩壊に直面する男、行き場のない愛に翻弄される男女、そして人間の欲深さと傲慢から終焉を迎える世界…というように、その物語が内包するテーマは重くてハード。楽しいというよりも、その物語に浸るうちにガツンと心を掴まれた。ラスト、自分が養女に産ませた赤ん坊を取り上げて「よかった、女の子だ」と言う主人公にとって、その赤ん坊は自分の血を分けた子である以前に性欲の対象としての幼女であり、「変態は死ぬまで変態」という宿命に、抗いながらも結局逆らえなかったという怖さを含んでいる。こういうテーマを、パロディ・コメディの範疇でやったブルースカイはすげえな、と、ただ無心に感心。ブルースカイの長編・演出は初めて観たわけですが、不条理でメチャクチャで脱線しまくってるように見えて、話の本筋は見落とさずにちゃんと追っていけるきちんとした構成や、歌って踊ってのミュージカルとしてちゃんと成立されているあたり巧いなあと思う。「ジャン・バルジャン苦悩の群舞」(?)とか、面白くて引き込まれて観てしまった。笑わせたいならすべてにおいてレベルの高さが必要、というわりと基本的なことをきっちり見せられた気になりました。
以下、ダラ書き。

  • 廣川さん最高だった…! この人なくしてこの作品はなかったんじゃないかと思うほど。苦悩する変態っぷりが見事。スクール水着姿の気持ち悪さとか、いっそ潔く清々しい。声いいし歌巧いし、本家『レミゼ』でも主演できるんじゃないの?
  • テナルディエ夫妻を大堀こういちと池谷のぶえが演じて面白くないわけがない。小悪党ぶりからラストの悲劇に至るまでさすがの貫禄。
  • せいこうさんがいるとそれだけで場がばっしり引き締まりますね。
  • モッカモッカコンビ演じる「謎の男J」「謎の男Z」の意味のなさ。狂言回し的役割かと思いきや話を回してるってほど回してもいないし。こういうの好きだ…! 「松坂とイカ」だとかミスチルだとか、何の脈絡もないコネタがいちいちツボる。あと、ええと、2人とも黒スーツ姿が普通に格好いいです。
  • 脈絡がないといえば、ジャベール登場シーンのまったく無駄なイントロとしての陛下と近衛兵と田中警部とのやりとりとか、後のシーンの無駄なイントロですらない「Mちゃんの話」とか、こーゆー無駄なの好きです。
  • 小村裕次郎…面白いなこのひと…! ハマリ役っていうのはこーゆーことを言うのか。
  • 吉本菜穂子と高木珠里がいじらしくて可愛らしくてたまらない。2人ともマリウスが好きなゆえに苦しい思いをしている、そういう痛みがひしひしと伝わってきて切ない。かと思えば天然ボケな近衛兵だったりイメクラの意地悪な店長だったり、他でも面白いキャラクター演じてたりして。
  • 市川さん。前から気になってた役者さんですが(具体的にいうとムニエルのコント公演『面白く山をのぼる』でサザエさん演じてたくらいから)、今回のアンジョルラス良かった…! 特に何がどうというわけではないけどものすごく場を引き付ける。
  • 野間口さんが普通に格好よくて口あけて観てました。時代がかったフロックコートからカントリーなオーバーオール、マトリックス風ロングコートまで、に、似合うなあ…(溜息つきつつ) あ、七三も素敵でしたね…(溜息つきつつ) なんだかものすごく大きく見えました。
  • 「俺はロリコンなのか」と悩んでるあたりはまだ笑って観てられるけど、コゼットが養父ジャン・バルジャンの子を身篭っていると知ってからの苦悩する様がほんとに胸に迫る。野間口さんはほんとに雰囲気ある演技をすると思うです。「甘ったれるな!!」とジャン・バルジャンに怒鳴られるシーン、ジャンのあまりといえばあまりな暴言につい笑っちゃうんだけど、でもこれお互いにとって壮絶なセリフだよなあ。
  • 私が観た回では、7日の夜と千秋楽に作演家本人がチョイ役で出演。「謎の男」2人に銃を突きつけて追い詰めるんだけど、千秋楽の回は何故か、つきつけてた銃を置いたと思ったら両手を上げる「謎の男」2人にあわせて一緒に両手上げてました。まあ、ストーリーには一切絡まないシーンなんだけど…