『どん底』

どん底
2008.4.6(日)〜27(日)
シアターコクーン
原作:マクシム・ゴーリキー
上演台本・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演:段田安則江口洋介/荻野目慶子/緒川たまき/大森博史/大鷹明良/マギー/皆川猿時三上市朗松永玲子池谷のぶえ黒田大輔/富川一人/あさひ7オユキ/大河内浩/犬山イヌコ若松武史山崎一

http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/shosai_08_donzoko.html

千秋楽の27日、夜公演。
面白い舞台だったなあ。堪能した。観て良かったです。
しかし私の席(2階席だったんだけど)の近くに座ってた女性が、芝居中立ち上がって身を乗り出して観てたのには心底びっくりしたよ! 端の席だったからちょっと見切れて見えづらいシーンがあったのかも知れない。それはわかる。後ろの席とも段差がけっこうあったから、身を乗り出したところで後方のお客さんの視界がさえぎられることも、おそらくはなかったと思われる。でも私の視界の端に立ち上がってる彼女がちらちら映りこんでその度にものすごくイラっとした。はっきりと視界が遮られたわけではないし、私の席とも微妙に離れてたから注意するわけにもいかないし、何より彼女の近くの席の人が何も言ってなかったから私が口出すのもなんかおかしいし…というわけでほんとにどうでもいいストレス溜めました。いくら見切れ席だからといって立ち上がって観るってのはどうよ? 私は、相当常識外れな行為だと思うんだけど。ちゃんと観たかったらS席買えや、っていうね…しかし見切れ席と知った上で何の説明もなくチケット売ってたんだとしたら劇場側にも問題あるのか? よくわかんないけど。










原作を知らないので、ケラのアレンジがどの程度のものだったのかはよくわからないけど、救いのないどうしようもない物語を、重さはそのまま、明るくなりすぎず軽くしすぎず、でも絶妙に笑える作品に仕上げた匙加減はさすが。ケラ凄し。
綺麗事がないのがいいなあと思った。どん底で生きている人たちを、憐れむでもなく蔑むでもなく、英雄視するでもなく、ただそこに彼らが生きている事実だけを描いているという意味では実に淡々とした芝居。そこが好きだった。
金を手に入れれば飲んでしまう。「貧しい中でも前向きに」なんていうポジティブさとは無縁で、将来も未来もなくその日その日しか生きていない。希望を失った者は最後、首を吊って死んでしまう。誰もどん底から抜け出せない。そんな中でも、諍いの絶えないつらい日々の中であっても、「どん底」の住人たちは人が良い。そんな彼らが最後にはたまらなく愛おしくなってくる。愛するナターシャに誤解され、糾弾され逮捕されるペーペル。吹き荒れる吹雪が、残酷なこの場面にあって実に美しかった。
キャストもね。あれだけのメンツ揃えたんだから良くないわけないんだけど、ほんとにみんな良かったなあ。特に、主に狂言回し的な役割を担っていた「帽子屋」のマギーの存在感が絶妙。楽隊の存在も、唐突なんだけど不自然じゃなく芝居に溶け込んでいたし、舞台セットも仕掛けも衣装も舞い散る雪も、細部に至るまで美しい舞台だった。


千秋楽ということで、カーテンコールに演出家登場。相変わらずでかくてコロコロしたおじさんですが(失礼)、ベンチに座った足をクロスさせたくつろいだような格好でキャストと一緒に「カチューシャ」歌って、いやあ、かわいい。(もっと失礼)