ピチチ5『全身ちぎれ節』

ピチチ5『全身ちぎれ節』
2008.9.12〜21
三鷹市芸術文化センター 星のホール
脚本・演出:福原充則
出演:植田裕一(蜜)/碓井清喜/オマンサタバサ(ゴキブリコンビナート)/三土幸敏(くねくねし)/三浦竜一/吉見匡雄/中島美紀(ポかリン記憶舎)/小林由梨(B-amiru)/小村裕次郎千葉雅子猫のホテル

http://www.ne.jp/asahi/de/do/five3.html

公演二日目の13日マチネと、21日の千秋楽、観てまいりました。
おもしろかったーーーっっ!!










とはいえ正直なところ、13日に最初に観たときは、面白くはあるけどあまり世界に入り込めない感じがして、手放しで絶賛するにはにはいま一歩…という感じだったんですが。千秋楽は観終わった後「あっしまったこれ千秋楽だった、もう一回くらい観ておきたかった!!」と大後悔してしまった… 笑って笑ってキュンとして切なくなってでも可笑しくてびっくりして、という、なんともピチチらしい公演、だけど今までのピチチのテイストよりもちょっと大人びた雰囲気も感じて(前作『吐くな!飲み込め!蘇れ!』からわりとそういう雰囲気は漂わせてましたが)、確実に世界を広げていってるなあと感じる。ほんと面白かった。一回目に観たときと千秋楽とでは演出も多少変わってテンポがすごく良くなってたし、役者も三鷹の舞台に慣れたのかまさに縦横無尽という感じであの広い舞台を所狭しと駆け回ってなにしろテンションが高かった。ストーリーもオチもわかってるのに、二回目に観たときの方が感動したし新鮮だった。このハイクオリティをはじめから見せてくれてたらなあ…という思いも多少あり。プレビュー公演というものが日本の演劇ではあまりないので*1公演やりながら修正していき、楽日近くなって芝居が固まる、っていうのは仕方ないんでしょうけども。
千秋楽観て思ったのは、やっぱり福原さんは空間の使い方が抜群に上手い。ここでは何回か芝居を観てますが、間延びした三鷹のこのステージ(私がこの劇場を好きになれない最大の理由)をこんなにうまく使えているのは初めて観た。*2 福原さんなら本多で芝居やっても充分空間を活かしきるだろう、と思ってましたがたぶんきっと間違ってない。次は本多に進出しちゃえよ、ピチチ!!


14歳のときにキース・リチャーズからギターを貰ったばっかりにバンドの辞め時を間違えた男がタイムスリップして14歳の自分に出会う「国分寺キース・リチャーズ」、才能ないのに売れたい作家二人が流れついた青森で銀河鉄道に遭遇する「花巻のスカーフェイス」、ぼったくりバーを営むあやうい仲の男女がお互いの人生にそれぞれ踏ん切りをつけるため、最後男が階段落ちに挑む「蒲田の行進曲」。一本一本は独立した話だけれど、舞台は民子(千葉雅子)と孝(オマンサタバサ)の暴力ぼったくりバーを中心にしている連作オムニバスといった感じ。3本ともストーリーもテンションも滅茶苦茶だけど、最後スッと切なくなる余韻の残し方はさすが。いつも「些細なことが雪だるま式に大きくなって最後無駄に壮大なオチ」が福原流だけど(例えば好きでもない男にしつこく告白される女が最後は何故か美空ひばりになって世界を救うべく空を飛ぶ、とか)、今回は物語的にはそこまでの壮大さはないものの、その分空間を活かした道具立てが派手で(せり上がる舞台の下から現れる巨大なアンプ、ねぶた、やたら高い階段と宙吊りとリアル階段落ち)やっぱりびっくりさせられる。

今回のわたくしお気に入りの一本は、やっぱり「花巻のスカーフェイス」かなあ。主人公が宮沢賢治萩原朔太郎ってだけで充分可笑しいのに、その他登場するのが石川啄木芥川龍之介与謝野晶子藤子不二雄。大先生たちをボコボコにして原稿盗んで石川啄木と対決するってどんだけカオスか。しかも石川啄木との対決のために召喚された「クラムボン」が、お台場に棲息する緑色の恐竜の子どもにソックリな男性のアレ。(ここまで書いてきて改めて思うけどほんと酷いストーリーだなこれ…笑) ここまで滅茶苦茶やっといて、最後楽しそうに祭りに行く人々を見て「彼らは僕の物語なんか必要としていない」と呟く宮沢賢治にきゅうっとなっちゃったりして、ほんとに福原作品はズルイぜ。

いやしかしほんとにピチチのレギュラーメンバーは素晴らしい。とりあえず碓井さんのキチガイっぷりは小劇場界でも屈指だと思うよまじで。キチガイなのにかわいい、かわいいけどこわい。彼らの芝居をもっと観たいよ。今回は客演陣もそれぞれ良かった。特にやっぱり千葉雅子かっこいい。千葉脚本と福原演出の相性の良さは実証済みですが、女優としても福原作品と相性がいいとみたよ千葉雅子


千秋楽、拍手がなかなか鳴り止まず、おそらくピチチ史上初のカーテンコール2回。慣れないメンバーのちょっとおどおどした初々しいカーテンコールが観られてさらにきゅううんとなりました。(三土さんに至ってはおそらく早々に楽屋に戻ってしまったために出て来れず)
満足。

*1:以前これ読んで、ほほう、と思いました。→http://ameblo.jp/ackerman/entry-10086575913.html

*2:舞台を完全にツブして使ってたスロウライダーの『アダム・スキー』は別として。