ハイバイ『オムニ出す』

ハイバイ本公演『オムニ出す』
2008.10.19〜11.5
リトルモア地下
演出:岩井秀人


■「落(落語)/男の旅―なつこ編―」
作 岩井秀人
出演 夏目慎也(東京デスロック) 高橋周平 師岡広明 坂口辰平 石澤彩美

■「星(SF)/輪廻TM」
作 前川知大(イキウメ)
出演 岩井秀人 金子岳憲 師岡広明

■「常(いつもの)/ヒッキー・カンクーントルネード」
作 岩井秀人
出演 端田新菜(青年団) 平原テツ 岩井秀人 坂口辰平 川田希

■「仏(フランス)/コンビニュ(または謝罪について)」
作 岩井秀人
出演 師岡広明 永井若葉 坂口辰平 篠田千明(快快)

http://hi-bye.net/

10/31に「落/星」、11/1に「常/仏」を観てきました。










「ヒッキー・カンクーントルネード」における役者・岩井秀人があまりに素晴らしくてびっくりした。
岩井さんの演技を観るのは前回本公演『て』、前日に見ていた「輪廻TM」に続いてこの「ヒッキー」が3回目で、それまでも上手いなーとは思ってたけどこの「ヒッキー」におけるひきこもり10年目の青年・トミオはほんとに素晴らしかった。「真に迫る」というよりも、もっとずっと生々しい。思わず舞台上に駆け寄って手を差し伸べたくなるくらい、「そこに居る」感じ。唯一の理解者で友人でもある妹が離れていってしまうかも知れない恐怖に打ちのめされる様とか、怪我してボロボロになりながら目にいっぱい涙を溜めてる様とか、痛々しくて見ていられないほどだった。自身も16歳から20歳までひきこもりだったという岩井さんの経験が色濃く反映しているであろうこの作品・この役は、彼にとっても特別なんだろうけど、それにしても役者の演技を見てあんなにぞわぞわした気分になったのは久しぶりだった。
岩井さんの演技に限らずこの作品は一貫して生々しさがあって、今回の劇場のつくりのせいもあるかもしれないけれど(舞台が一段高くなっているわけではなく、客席とフラット。しかもコの字型に観客が舞台を取り巻いている)、とある家庭・とある家族に「起きている日常」と「起きた事件」、観客はそれを図らずも覗き見てしまったような後ろめたさを感じてしまう、そんな作品だった。
トミオの周囲を取り巻く人々、みんなそれぞれに彼のことを思いやっているのに、そしてその思いやる気持ちはそれぞれに正当性を持っているのに、それだけに相容れなくてお互いを傷つけていく。みんなが彼のことを考えているのに、でも結局誰もトミオ本人の意思を確認しようとしない。そしてトミオも、一体どうしたらいいのかわからない。登場人物たちの苛立ちや絶望や、そういったものがどうしようもなく迫ってくる。何度も泣きそうになった。
なんて書き方するとひどく重い芝居のように思えるけど、笑いの挟み方が絶妙で、確かにテーマは重いんだけどそれだけじゃない、すんなりと楽しめる面白い芝居だった。『て』を観たときもそのへんのバランスというか、匙加減が絶妙だなあと思ったけど、今回もそのへんの上手さをすごく感じる。「面白い」(笑いを取るということに限らず)っていうのはやっぱり重要。
他の作品は、「ヒッキー」に比べればずっとライトだし、実験的でもある。それぞれ個性的ですごく面白かった。
■落(落語)/男の旅―なつこ編―
岩井さん本人が「役者=役の入れ物」システム、なんて言葉を使ってましたが、一人の役者に一つの役を振り分けるのではなく、一人で何役もやるし、逆に一つの役を何人もの役者が入れ替わりたち替わりやったりする。そして最後はほんとに一人の男が二役やってるところを友人に目撃されて「あいつ一人で何やってんだ?」という見事なオチ。落語を演劇という手法でやったらなるほどこうなるのだね、という納得の一品。ストーリーは男3人が風俗行ってどうのこうのというものだったので役者の演技もだいぶ生々しく際どい感じ。「なつこ」を女優がやってたらけっこうシャレにならない作品になってたかもね。「なつこ」役が夏目慎也で良かったですほんとに。それにしてもみんな演技上手くてびっくりした。というかこの作品に限らず、この公演の出演者はみんな良かった。
■星(SF)/輪廻TM
これはほんとに軽く笑える作品。尤もらしいセリフで観客を煙に巻いていく脚本と、出演者3人ののらりくらりとした演技に終始ニヤニヤしちゃった。
■仏(フランス)/コンビニュ(または謝罪について)
親族代表に提供した脚本「コンビニ(または謝罪について)」の再演で、再演といってもまったく別物の作品に仕上がっていて興味深し。親族の公演では冒頭に主人公の男の「自分を変えたい、変わりたい」という独白があってそれがその後の展開のバックボーンになっていたんだけど、今回はそのバックボーンを全部とっぱらってひたすら「謝るのか謝らないのか」というやりとりに終始。というか、今回は題材(脚本)はなんでも良かったんだろうな、ああいう感じの「やりとり」がやりたかっただけだろうから。「落」のように終始役者の役割が入れ替わり(しかも人の役と限らない。コンビニのカウンターだったりタバコだったり雨という現象だったりと目まぐるしい)、「何をどうやるか」という点はかなり役者任せだったみたいでみんな舞台上で自由に暴れてました。しかしフランス人演出家の演出風景を目撃して「これなら俺でもできるかもね」で出来上がったのがこの作品だというんだから劇作家・岩井秀人って人は大胆だよねえ。鮨が出てくるクダリは岩井秀人流のフランスというイメージの解釈なんだろうか。よくわからんけど。すれ違いの表現に鮨って。意味がわからなすぎる。すきだ!


そんなわけだからハイバイは今後も観続けると思います。来年春、愛知で「ヒッキー」やるんですって。主演は岩井さんじゃないみたいだけど。観に行きたいなあ。