『ちっちゃなエイヨルフ』

『ちっちゃなエイヨルフ』
2009.2.4〜15
あうるすぽっと
作:イプセン
演出:タニノクロウ
出演:勝村政信とよた真帆馬渕英俚可野間口徹マメ山田・星野亜門(Wキャスト)・ 田中冴樹( W キャスト)
http://www.majorleague.co.jp/stage/eyolf/

4日の初日、14日、千秋楽の15日…と、結局3回観に行っちゃいました。3回とも結局B列とC列…これはこれで良かったんだけど、やっぱり引きで舞台全体を観たかったなー。
しかし本日千秋楽は、ケータイを切ってないおおばかものがいたり(しかも切るチャンスをそいつが故意に見送ったせいで2回も鳴らせやがった。キィ!)イビキかいて寝てる人がいたり劇中しゃべってる人がいたりと、かなり客席に恵まれなくてがっかりだ。寝るならせめて静かに寝てくれ。
翻訳ものが苦手、古典が苦手、会話劇が苦手、という人も多いだろうから誰にでもオススメできるジャンルの芝居じゃなかったとは思うんだけど、でもすっごく面白かった。イプセンの戯曲は予め読んでいて、その第一印象はひどく重い話だなあというもの。しかし実際今回の舞台を観たらたしかに重い話ではあったんだけど、それ以上にストーリーの面白さとスリリングな展開は単純に面白くて、終演後はわりとのびのびと「いやあオモシロカッタ!」とニコニコしちゃうような作品でした。私にとっては。重苦しさだけを吸い上げて「ちょっと…」となっちゃう人もいるかも知れないけど。
古典(イプセンはジャンルとして古典に入るんだろうか?)で、我々日本人とは文化的思想的背景のまったく違う世界の話なので、この手の演劇は堅苦しさや馴染めなさを感じることも多いんだけど、タニノクロウはそれを見事に「現代劇」にしたなあ、というのを感じた。確かにセリフや演技自体はかなり「演劇!」って感じなんだけど、そのセリフの発し方のニュアンスとかがかなり馴染みやすい。現代的。リタがちょっと小馬鹿にしたようにアルメルスに訊き返すとことか、面白くて毎回ニヤニヤ。
初日に観たときと2回目3回目に観たときでは、ささいな点からけっこう大きな変更まで、演出変えてるシーンがちょこちょこと。中でも一番大きな変更だったのが、ラスト近く、アスタがボルグハイムに一緒に来るかと訊ねてボルグハイムが喜びいさんでついてっちゃうところ(余談ですがこのシーン、それでホントにいいのかボルグハイム…っていうのは戯曲読んだときから思ってたんだけど。かわいいぜボルグハイム。)、初日は2人ふつうに連れ立って退場だったんだけど、ボルグハイムが両手を広げてアスタを迎え入れようとしてるところにアスタがドカ!と荷物押し付けてとっとと行っちゃう、っていう、100パーセントコントなシーンに変わってました。やだもう面白すぎる。コントっていえばボルグハイムに野間口徹ってのはほんとになんてツボなキャスティングであろうかと、ボルグハイムさん登場シーンになるたびにひたすら感心しておりました。笑いが身に沁みついた人でなければ、あの「第三者」感や「カラ回り」感、「報われない」感といったちょっと残念な空気(笑)は滲み出てこなかったろうと思う。それにしても野間口さん、いつのまにあんなに声出るようになったのか。舞台俳優としてはどっちかというと声の大きくない人だと思ってたので、今回声が気持ちよくビシビシ届いていて、ちょっとおおうとなりました。
実は勝村さんをちゃんと観たのが今回初めてで。「この人舞台で観たら相当色っぺーんだろーなー」と思ってたんだけど予想通りで(笑)素晴らしかったです。馬渕さんと2人のシーンのいちゃつきっぷりとか、物語が進むにしたがってちょっと狂気じみてくる(はっきりと狂気なんじゃなくて「じみてくる」)感じとか。勝村さんといえば「今日のランチは何だろうと考えていた」のセリフは、ごく真剣なシーンに突然挿入されるので客席も笑っていいものかどうかものすごーく判断に困ってるのが空気として感じられて、なんかそれだけでもこの芝居の一筋縄で行かなさを感じたりしてそういう点でもひじょーに面白かったです。
イプセン作品はこれのほか「野鴨」「人形の家」を読んだだけだけど、とりあえずどれも非常に女性が強い物語。比して男性は非常に情けない生き物として描写されてて、そこがまた面白くて憎めないキャラクターになっている。今回も我の強いリタとしっかり者のアスタに挟まれたアルメルスのダメっぷりが、物語の真剣味を吹き飛ばすくらい可笑しいし愛おしい。
他のキャストも良かったし、不安定に積み上げられた椅子や不安を掻き立てる水音といった、シンプルだけど観た者に訴える効果もさすがだなーと思ったし、ともかく全面的に相当好きでしたこの作品。3回も観ていれば、ちょっとしたセリフやシーンや表情が後々のシーンの伏線や予兆になっていることに気付いたりもして、そんなところに細やかさを感じつつやっぱりイプセン×タニノクロウ、そしてこのキャストというのは相当幸運な舞台であったなあと思います。