『ネジと紙幣』

『ネジと紙幣 based on 女殺油地獄
2009.9.17〜27(東京公演)
天王洲銀河劇場
劇作・脚本・演出:倉持裕
出演:森山未來ともさかりえ長谷川朝晴江口のりこ細見大輔野間口徹満島ひかり/小林高鹿/田口浩正根岸季衣近藤智行吉川純広

http://www.neji.ne.jp/index2.html

23日、マチネ。










充分面白かったんですが、期待値が高かった分やや物足りなさも感じるかな…という感想。「女殺油地獄」がベースになっているということで、もっとドロッドロしたものをなんとなく想像してた(って女殺油地獄は観たことないんだけど)。いや、内容的には実際ドロドロしてましたが、そのわりに描き方がライトで観やすい芝居だった。おかげで2時間ちょいという長い上演時間にもかかわらずさほど長さを感じることなく疲れず観ることができました。私的にはぐったり疲れるくらい、もっと濃いいいい芝居を観たかったんだけど。
行人(森山未来)がどんどん駄目になって追い詰められていく過程とか、もっと意地悪にねちこく描いても良かったんじゃないかなあと。そのライトさのせいで、最後、執拗に桃子(ともさかりえ)を刺し殺すのがちょっと唐突に思えたりした。腫れ物を触るように扱われてきて、そんな周囲の人間を軽蔑していたのに、最後、唯一頼りにしていた桃子に軽蔑されてプツッ…となってしまった。それはわかるのに、殺人の衝動にまでは結びつかない気がした。汚れた靴に必要以上に苛々を募らせるとか、細かい描写は面白かったのにな。なんか勿体無い。

とはいえ達者な役者が揃っていたし、意外と笑どころも豊富で観ていて飽きなかった。倉持さんの笑いのセンス好きだ! 冒頭の、行人と2人の友人たち(近藤智行吉川純広)のやりとりとかまったくのドタバタで(ボート小屋崩壊には、ドリフか! と心の中でツッコミ)、ここで行人の子どもっぽさが見えることによってその後の展開にも深みが増して、こういうとこやっぱり構成が上手いなあと感じる。それにしてもペンギンの2人の若手、いいなあ。上手いし。

森山未來すっごい良かった。森山くんがストレートプレイなんて勿体無い、と思ってた人が多かったと思うし私もそう思ってたけど、「うわーふつうに芝居上手いわー」となんか妙に感心しながら観てた。とことんクズな男なのにどこか哀しみが見えて憎めない、行人というキャラクターに見事にハマってた。それにしても未來くん体絞ったね! この舞台の制作発表があったくらいの頃は「…誰…?」って思ったくらいぷくぷくしてて(っていうかパンフの彼も相当ぷくぷくしてる)どうなることかと思ってたけど、細川徹に戻ってました体型戻ってました。
あと、野間口さん演じる栗尾がたまんなかったです。「コミュニケーション下手でロクに会話もできなくてすごく軽く扱われているのに、プライドだけやたら高くて周囲の人間を死ぬほど軽蔑してる」という暗い情念を抱える男。でもコメディ担当でもあって、きっちり笑いも取っていく。そしてそこがまたなんか物悲しい。こういうの! こういう野間口さんが観たかったの!!

それにしても生傷の絶えない舞台であろうな。舞台上であんだけ見事な飛び蹴り観たのは二度目です。(未來くんが野間口さんをクリティカルヒット)(ちなみに一度目はKAKUTA『甘い丘』での村上航が桑原裕子にDVなシーン)

観終わった後気付きましたが、「女殺油地獄」は油屋で油まみれな話ですが、この『ネジと紙幣』は町工場で機械油まみれな話なんですね。なるほど。(遅)