『ファウストの悲劇』

ファウストの悲劇』
2010年7月4日(日)〜25日(日)
Bunkamuraシアターコクーン
演出:蜷川幸雄
出演:野村萬斎勝村政信長塚圭史木場勝己白井晃、たかお鷹、横田栄司、斎藤洋介、大門伍朗、マメ山田、日野利彦、大川ヒロキ、二反田雅澄、清家栄一、星智也、市川夏江、大林素子、時田光洋、中野富吉、大橋一輝、手打隆盛、鈴木彰紀、川崎誠司、浦野真介、堀源起

http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/10_faust/index.html

23日、会社帰りにかけつけました。










ぎゅっとくるほどのパンチは感じなかったんだけど、すごく面白かったです。和洋折衷のごった煮感とコメディテイストの軽妙さ、それが「信仰」という大きなテーマをはらんで、ラストのファウストの絶望へと流れ込んでいく。宙吊りの多用や、奈落までも観客に見せる舞台美術、黒子がちょくちょく出てきたり舞台袖で拍子木打ったり、そんな外連味たっぷりな演出が楽しい。キリスト教に馴染みがないと、ファウストがさんざん振り回され苦悩する「信仰」というものがピンとこないかも知れないけど。
それにしても、ルーシファーとの取り引きで魂を渡す代わりに世界をも自由にできる強大な力を手に入れたファウストが、メフィストフェレスと世界漫遊の旅に出てイタリアの街の美しさに感激したり、働く悪事が庶民相手のケチくさい詐欺だったりとかして、全体的にのんきで牧歌的なあたりが微笑ましい。その挙句に最期の時を迎えたときに、地獄行きの恐怖に七転八倒の苦しみを味わうんだから、なんか割りに合わない物語だ。(その「割りに合わなさ」がこの物語が伝えたいキリスト教的教訓なんだろうか…)
で、野村萬斎出演舞台の感想には必ず書いてる気がしますが、とにかく萬斎ファウストがうつくしすぎて失神するかとおもいました。金髪で長髪で髭でなまっちろい顔色悪メイクで黒装束。なんだこの完璧さ。そんでまあ身のこなしの美しいこと。彼の芝居芝居した演技は蜷川演出とほんと相性いいなー。勝村政信メフィストフェレスがまたかっこよくって素晴らしかった。全体的に投げやりな感じと、ファウストの命令にやや振り回されぎみな人間くささが楽しい。唐突に始まった2人のタンゴシーンとか色っぽすぎてうぎゃーとなった。このシーンに限らず、終始この2人の間には「愛憎半ばする」といった距離の近い緊張感と艶っぽさがあった。…って思ってたら、パンフの蜷川幸雄インタビューで「ファウストメフィストフェレスの関係はまるでホモソーシャル*1な関係のよう」「香港ノアールの映画などにも見られるけれど、そんな濃密で秘められた絆」という言葉が出てきたので納得。絶世の美女ヘレネに寄り添うファウスト、という絵ヅラよりも、ファウストメフィストフェレスが一緒に居る方がはるかに濃密なエロティシズムを感じさせる。
ラストシーン、ファウストを腕に抱いてメフィストフェレスが地獄へと下る。このときの2人の姿が、ミケランジェロの彫刻「ピエタ」に良く似ているのは、演出家の意図してのものなのか私の思い過ごしか。

*1:男性同士の強い連帯関係のこと。ウィキさんより。