『コンタクト』

コンタクト 特別編 [DVD]

コンタクト 特別編 [DVD]

人にオススメされてDVDで観たんだけど、いや〜これ素晴らしかった。1997年のロバート・ゼメキス監督作品。
この作品のことは、観るまでは「SFでしょ?」くらいにしか思ってなかったんだけど、SFはSFでもその主眼はサイエンス・フィクションを描くにあらず、科学と宗教、アメリカ人と信仰といったものに関して考察の機会を与えてくれる、興味深い内容であった。2時間ちょっとの時間でこれだけ濃密な内容を描くって凄いわ、と、もうそれだけで感動できる。
中でも特に印象的だったのは、主人公が「未知の装置」への乗組員候補として面接を受けたときに交わされた会話。「科学者として証拠のないものを認めるわけにはいかない」と神の存在を「肯定しない」立場を明確にした主人公が、「人類の95%が何らかの形で信じている“神”を否定する者を人類の代表に選ぶわけにはいかない」と言われる。そして結局、乗組員に選ばれそこなってしまう。この「神を信じない者は人類の代表にはなれない」という理屈は目からウロコであった。私はキリスト教徒ではないのでキリスト教的な「神」は持たないし、かといって他の宗教を信じているわけでもないが、それでも神社にお参りしたりおみくじを引いたりする。仏壇があればそれに手を合わせたりもする。これは「神(あるいは仏)」というものの存在を積極的に認めているわけではないにしろ、やはりそこに何か特別なものを感じているからであり、これは私にとっての宗教であり信仰であると言える。宗教には無頓着な私でさえそうであるのだから、多くの人々が敬虔な信仰を持つアメリカで「神の存在を肯定しない」というのはたいへんなことなのであろう。(非キリスト教徒にとって「無神論」の恐ろしさは想像を超える) その主人公が紆余曲折の末、結局その「未知の装置」に乗り込む「人類代表」となるのだが、神秘的な体験をして戻ってきた主人公を全米がまるで聖女を見るかのような敬虔さで迎え入れるというラストシーンは、アメリカ人にとっての宗教的熱狂をよく表わしていて非常に興味深く思った。
「未知の装置」によってはるか遠くの星「ヴェガ」に運ばれる主人公が、宇宙の美しさに打ち震えてその感動を言葉に表わすことができないのをもどかしがり、「詩人を乗せるべきだったのよ」というシーンも感動的であった。そのシーンで無神論者の主人公が神の存在を悟ったとか、そういうことは一切描かれていないが、そこで感じる畏敬の念は意識的にしろ無意識的にしろ「創造主」への畏敬の念であるだろう。*1
「SF」を期待していたら間違いなく肩透かしをくう作品であるが、組織や国家といったものにがんじがらめになりながらも職務に邁進する主人公、その彼女を支援するスポンサー企業の不透明な背景と様々な謎等々、サスペンス的な面白さもあって実に見ごたえのある佳作。

*1:そういえば、昔、スペースシャトルの乗組員が地球帰還後に仏教徒になったという話をテレビで見た気がする。