ピチチ5『おさびしもの』

『おさびしもの』の、楽日まで観た後の感想を簡単に。長いのでタタミます。
第一話:「Oh!よしこ」
はじめ見たときは、オチの弱さ(ほんとのオチは第五話でつくからなんだけど)もあってもうひとつパンチが足りない印象でしたが、観ればみるほど面白さが増していきました。三浦さんの「きみ、感受性はだいじょうぶ!?(発音的にはむしろ「だいじょおぶ!?」)」を思い出すだけで半年は笑って過ごせる気がする。役立たずの牧村の4人の友人たちが地味に面白すぎる。


第二話:「隻腕くん」
ちょっとシモ単語連発すぎてキツいなあ、と思ってましたが、それに慣れて単語の先にある「セリフそのもの」に意識がちゃんと届くようになってくると、俄然面白くなりましたこのネタ。人は寂しさとどうつきあって生きていくのか、そんな心に痛い話。寂しいんです、とぐしぐし泣く碓井さん(可愛すぎる)をうんうんと頷きながら慰める右手の野間口さん(可笑しすぎる)、という図だけでごはん3杯イケる気がします。楽日はこれが最後とばかりに毛を放り投げる量がハンパなくて客席にまで落ちていきました。あれは…被ると嫌だなあ…
シモネタ、と思ってましたがぜんぜんシモネタじゃありませんでした。


第三話:「魚の生徒」
植田さんの演技に思わずうるっとしてしまいそうになる。生徒と不倫の挙句に妊娠させて、しかもその生徒が自殺してしまうという、どうにもできない、どうにもならない状況の中で思わず告別式会場から女生徒の死体を盗み出してしまった男の、馬鹿な純愛。3人の生徒たちは彼女の死を悼む気分になれないことにちょっと罪悪感を感じつつも、自分達の日常を優先させてしまう。教師と死んだ生徒の逃避行という事件は、彼らの日常を掠めて、あっというまにはるか遠くへ。
二話から三話への転換時、半暗転中に三土さん・三浦さん・野間口さんの3人が舞台中央に並んで立ち、一端暗転、再び明転したときには3人の立ち位置が変わってるのですが、これがちょっとおーと思ったほどかっこよい。『りっしんべん』のときも思いましたが、福原さんはネタとネタの間の転換時の演出も手を抜かずにかっこいいものを見せてくれます。音楽の使い方がまた素晴らしい。「一緒に写真撮ったこと、なかったからな」のセリフからラストにかけての音楽が秀逸。しっとりとした音楽でシメるのかとおもいきやふわっとアップテンポになって。劇中の音楽ってそのシーンをぶちこわしてしまうケースがまま見受けられますが、福原作品に関してはそのへんまったく安心できます。


第四話:「牛丼太郎高円寺店」
牛丼太郎高円寺店」が実在したことを知り驚愕。(しかも高円寺店はピチチ本番直前に閉店したらしい)ほんとにこのネタが大好き。あの短い時間で見事な群像劇を描いてると思う。福原さんは群像劇描くのが巧い。深い事情まではわからねど、登場人物各人それぞれいろんな人生があったんだろうな、と思わせる。それぞれが交わす会話もいちいち面白いんだけど、三土さんと吉見さんが交わす会話は特に見事なくらい内容がなくて、なんだかこの2人の毎日の空疎さを表しているようで大好きです。最後、「今日もまだまだ一日長いな…」と言う三土さんに対して、吉見さんが笑顔になって「長いっすねえ」と返すところ、なんだか感情がリアルで泣けてしまう。
仕事を真面目にやる気はさっぱりないのに、客に対して「こんな店で食事してちゃ早死にするぜ」と忠告したり、客からのクレームに対して清掃業者にちゃんと仕事するよう厳しく言ったり、へんなところで優しさや真面目さ(自分が直接手を下さなくていい範囲の話ではあるけれど)を発揮する野間口さんのキャラが、前にも書きましたが素晴らしいです。


第五話:「世界をもっと複雑に」
福原さんの作品は、一回笑いを通り越してその先のセリフそのものやストーリーが見えると、ぐっさりと心に突き刺さるように思います。このお話に出てくる牧村も、モテない現実を見るのが辛いから、世界をもっと複雑で曖昧にして幸せになったとカンチガイすることによってなんとか自分を保っている。でも、カンチガイでも幸せな夢を見られるならば、カンチガイでも空を飛ぶくらいの力で前進できる。このお話のオチというのはそういうことなのかな、と思ったときにぐぐっとこの作品が好きになりました。
碓井さんと高橋さんの芸の細かいイチャイチャ演技、大好きな自転車が登場したときの三浦さんのヤバいくらい嬉しそうな表情、そんな細かいところまで行き届いた作品。



初日に観た印象は、前作『はてしないものがたり』の方が私は好みだなあ、というものでしたが、何回も観ているうちに同じくらい好きに、というかむしろ前作よりもパワーアップしてるんじゃないの? と思えてきました。福原作品は一回観てゲラゲラ笑って、2回目以降「滑稽な哀しさ」がじわじわと見えてきて心がじんわりしてしまう、そんな作品なのかも知れません。