メタリック農家『食』

メタリック農家食欲の秋新作公演『食』
2006.11.8.(水)〜12(日)
王子小劇場
脚本・演出:葛木英
出演:伊藤一将/石川ユリコ(拙者ムニエル)/三科喜代(ブルドッキングヘッドロック)/中島徹・古市海見子・岩田裕耳/竹井亮介(親族代表)・大川祐佳里/辻沢綾香・島田千穂・本田久恵・大内涼子/猿田モンキー・浦壁詔一・高見大和
http://www.metanou.com/next.htm

11/10、夜。










婚約者のまつ子について東京から彼女の実家にやってきた出(いずる)。そこで祖母である千代の昔語りを聴くことになる。
「ペチョラ」と呼ばれる妖怪を管理飼育して、冬には雪で閉ざされてしまう村の雪かきをさせる役目を負っていた千代は、人型をしたペチョラに出会い、藻吉(そうきち)と名づけて可愛がる。賢く言葉も覚え話せるようになった藻吉は彼女にとって大切な存在となるが、飢饉に見舞われた村を救うために、ペチョラを食料として差し出すよう求められる。
村の有力者・金本家の人間と千代を取り巻く様々な人物関係から、この村が雪深く閉ざされた場所であるがゆえに近親相姦が普通に行われ、それに因を発する呪われた子どもの生まれる歪んだ村であることが浮き彫りになっていく。



非常に失礼な感想になるんですが、観終わって真っ先に思ったのが「このテーマで、長塚圭史が作・演出した作品が観たいな」でした。テーマもストーリーも非常に好みだし面白かったんですが、描ききれていなくて勿体無いという感じ。作り方が粗いというか雑というか…作家が若いからですかね…?*1重さと暗さ、可愛らしさと力強さ、希望と悲しみがてんこもりの、非常にいいテーマではあったと思います。
一番勿体無いなあと思ったのが、やたら説明的セリフが多いこと。前回公演『熊』では、ラストに字幕で全て説明して幕、というやり方をしていて「いやいやいや、それはやっちゃいけんでしょ?」と思ったものですが、今回も状況説明的なセリフ・シーンが多くて、あれでは観客の集中力が続かないのではないかと。少なくとも私は、セリフを追うのが面倒になってしまった箇所がいくつか。冒頭の、若い2人とおばあちゃんである千代(というかヘルパーさん)とのやりとりなど長いなーと思ってしまった。もうちょっと観客の想像力を信用する、というか、アテにするくらいの見せ方でもいいと思うんですが。ラストシーンも、実は藻吉の生まれ変わりであった出が千代の骨壷に手をつっこみ骨をばりばり食べ、そこに千代の幻影が現れて…って、見せすぎ! 最後まで見せすぎ! 余韻が欲しかったです。あの流れなら出が藻吉の生まれ変わりであることも千代を食べるんだろうなということも観客にはわかるんだから、骨壷を手にしたくらいで暗転させた方が絶対効果的だったのに…などと演出にダメ出ししてみる。せっかく素敵なラストだったのに。
今回は役者陣が非常に素敵な人が多かった。石川ユリコが拙者ムニエルでは見たことのない、非常に繊細な演技で良かったです。伊藤一将演じる藻吉が、話が進むにつれどんどん表情が深くなっていってこれまた良かった。古市海見子、巧かったなー。
で、客演の親族代表竹井さん。素敵でした…やー、マジで改めて惚れた。このお話の登場人物には基本的に悪人はいないんですが、その中にあってわりと冷徹な金本家当主・毅。実の妹と関係を持ちながら、彼女を家から追い出し、なおかつ嫁を迎えるというのに「気持ちはおまえにある」なんて言ってしまうズルい男。思えばこの人のシリアス演技は初めて観る。前々から貫禄ある演技する人だなあと思ってそこが大好きだったんですが、今回改めてそれを感じました。まさに「役者がちがう」って感じ。ベタ褒めですがほんとにそう思ったんだ。表情とか細かいし、ちょっと大袈裟になってしまいがちになるようなシーンも見事に雰囲気を整える、そんな役者。それにしてもほんと、幅の広いキャラを演じられる人だなあ。
あ、そうそう、客席横の通路も舞台の延長として使ってたんだけど、そこに砂利が敷いてあって、踏むたびにジャリジャリと音がする。これが雪を踏みしめる音を演出してるんだけど、これはすごく雰囲気あって面白かった。反面、これはあるいは劇場側のせいでどうにもならないことなのかもしれないけど、雪に閉ざされた村が舞台なのに客席の暖房が効きすぎて暑くてたまらず、なんだかなあという気がちらりと。まあ客席が寒くても困るけどさ。
メタリック農家は、前回公演『熊』に相当ガッカリさせられたので観に行くかチケット発売のギリギリまで迷ってたんでした。でも今回観に行って良かった。前回に比べればすべてにおいて相当レベルが上がってる感じがしました。あるいはこれから面白くなる可能性のある劇団なのかも。

*1:葛木英、1983年生まれか…