KAKUTA『甘い丘』

KAKUTA18回公演『甘い丘』
2007.1.19〜28
シアタートラム
作・演出:桑原裕子
出演:成清正紀/若狭勝也/川本裕之/原扶貴子/佐藤滋/高山奈央子/大枝佳織/野澤爽子/馬場恒行/桑原裕子/椿真由美(青年座)/村上航(猫のホテル)/三谷智子/高島雅羅
http://www.kakuta.tv/sweethill/

本日21日、観てまいりました。










普通の「奥様」だったかの子は、夫が愛人をつくって家を出たために居場所がなくなり、住み込みで働ける場所を探してサンダル工場に辿り着く。その工場は丘の上にある、つねに甘いゴムの匂いの充満する古い工場。何かしら「訳アリ」な従業員たち、特に女たちが働くその場所で、かの子は寮母として働きはじめる。前科があったり夫とうまく行ってなかったり聾唖者だったり自閉症ぎみだったりその自閉症の女のヒモとしていりびたっている従業員ですらないチンピラだったりそのチンピラがひどいドメスティックバイオレンサーだったり、工場長には若い恋人がいたりその工場長の妹である主任ともなんか訳がありそうだったり、そんな問題だらけの粗野な従業員たちにはじめ馴れなかったかの子だが、時を経てやがて家族のような関係に。
夫の動向を見張らせていた探偵が、夫からの預かり物である離婚届と、夫の愛人である女に子どもができたというニュースを携えて彼女の元にやってくる。あてつけのために夫が軽蔑していたこの丘の工場にやってきていたかの子は、この工場にいる理由がなくなってしまう。そんな彼女に、事故で聴覚を失った虎杖(いたどり)は「どこへでも行ける靴」の話をし、かの子はまだ自分を女として見てくれている人の存在を知る。


正直言って前半1/3くらいはキツかった。芝居が板についてないというか、なんかちぐはぐな感じ。熱射病で気を失ったかの子が自殺する女の幻影(自分の姿?)を見るというオープニングのシーンはなんだか居心地が悪いし、勢いよく身勝手にしゃべりまくる女やわらわらと集まる従業員たちのやりとりなど、がやがやしすぎて空回りしている感じがした。しかしストーリーが転がりだしてからは緩急つけたテンポも心地よく、人物像も一人ひとり丁寧に描かれているから感情移入しやすくてラストまで一気に持っていかれる。観終わった後、いろんなシーンを思い返すと、構成が丁寧だったなあと思える。それだけに前半の空回り加減が残念。
主人公のかの子の物語、自閉症ぎみの従業員シュロとその恋人(ヒモ)であるDV男トンビの物語、工場長とその若い恋人で小説家志望のサワくんに工場長の妹みねを交えた物語、この三つがストーリーの主軸なんだけど、どれも哀しさとしみじみとした切なさがあってよかった。これに他の従業員たちの物語もばしばし挿入されてくるからかなり情報のボリュームが多い物語構成なんだけど、それを無理なくきれいに纏め上げていました。笑いのシーンは若干強引さを感じるところもあったけど、でも喜と哀のバランスは良かったと思う。
特にシュロ(桑原裕子)とトンビ(村上航)の物語が、馬鹿馬鹿しいんだけどそれだけに痛くて切なくて好きだった。彼女の体中に痣ができるほど暴力を振るうトンビだけど、ほんとは小心者だし親切な面もある。ここぞというときに血を吐く特技がある、なんて言ってたらそれは病気で、春を迎える前にひっそりと死んでしまう。「トンビは春の季語なんだよ」、そう言って自殺を図るシュロは、「トンビがいない場所にはいたくない」と言って、トンビが彼女に浴びせ続けた罵詈雑言を周囲にぶちまける。こういうシーンね、なんか…うまく言えないけどものすごくオノレの中の女子心が刺激されてきゅんきゅん切なくなりました。
最後、それぞれに別れや再出発があり、退職していたかの子は夫と正式に離婚してまた工場に戻ってくる。そこにはまだ自分を女として見てくれている人がいたから。この先どうなるか、待ち受けてるものは決して明るくはないんだろうなと思いつつ、花見に浮かれる従業員たちの様子を見ながらなんだかほっとするような、そんなラストも好きでした。
女性作家の舞台って今まであまり観たことがありませんでしたが、ぎちぎちとした感情の軋み具合だとか湧き上がる切なさとか、そういうものが満載のこの舞台はまさに女性だから作れた舞台だったのかなあなどとも思います。
以下、ダラ書き。

  • セットが安っぽく見えちゃったのは残念でした。明日図鑑とかスロウライダーとかでものすごくリアルな室内セットをよく目にしてるからそう感じたんだと思うけど。シアタートラムという劇場は客席が横に広くて全席正面向いてるので、端に座ったりすると複雑なセットでは死角ができてしまう。そういう意味でもちと残念。
  • トンビの髪型が。パパイヤ鈴木みたいな爆発パーマですごかった。登場シーンでは頭に手拭巻いていて、シュロに暴力振るうシーンでいきなりそれむしり取るなんて卑怯な演出だよ(笑)
  • KAKUTA稽古場日誌に「村上航さんは舞台に上がると何をするかわからないという感じ」というようなことが書かれていたことがありましたが、その言葉がよくわかる気がしました今回。確かにこの人の動きは次が予測できない。
  • トンビが蹲って「(死ぬのが)怖ええんだよう…」と呟くシーンと、雪の降るベランダでトンビとシュロ2人で毛布(っていうかコタツ布団なんだけど)に包まっているシーンがもんのすごく好き。2人とも可愛いすぎる。きゅん。
  • 工場事務所内に「春夏冬 いいサンダルは秋(あき)がこない」という標語が掲げられているんだけど、物語も夏→冬→春、と進んで秋はすっとばされてました。これは偶然なのか考えられてのことなのか。考えられてのことだったらちょっとすごい。そうでもない?(追記:もんのすごい勘違い。秋、ちゃんとありました。「秋の季語で俳句を作る」というわかりやすいシーンが続くのに、なんで秋が描かれてないって思ったんだか自分がよくわからないよ… というわけでこのお芝居は夏から春にかけて、四季を通してのお話、ってことですね。)
  • 「こんなとこで自殺したって誰も助けないよ」という工場なのに、最後自殺しようとしたシュロをみんなが必死で助けるあたりに泣きました。
  • 俳句教室のシーンは唐突すぎる気がして「別にこのシーンいらねえな」とか思ってましたが最後にきちんと生きてましたね。「トンビは春の季語」。きゅうん。切ねえ。
  • そういや村上さん、桑原さん相手に見事な飛び蹴りかましてました。大変!

なんか村上さんの話ばっかになっちゃった。いいじゃない好きなんだトンビとシュロが。