トリコA・プロデュース『豊満ブラウン管』

若手演出家コンクール2006・トリコA・プロデュース『豊満(とよみつ)ブラウン管』
2007.3.2・3.3
下北沢「劇」小劇場
作・演出:山口茜
出演:岩田由紀/筒井加寿子/鈴木正悟/秋山はるか/森上洋行
http://toriko.chips.jp/
http://www.k2.dion.ne.jp/~jda/wakate_top.html

コンクール4日目。










3/2に観に行き、とても面白かった上いろいろ気になるところがあったので、翌日もう一度観に行きました。そしたら、正直なところ「んん…?」と唸るような残念な結果に。
いつのどこが舞台なのか明確にされず、「牛の胃袋で人間の穴を埋める」「自分をわら半紙であると言う、一見人間に見える存在」「ブラウン管に吸い込まれる」などの不条理な展開。古い書き言葉のようなセリフの響きが美しくて、内容もちょっとブラックファンタジーな感じだったので『不思議の国のアリス』好きの私はずいぶんわくわくと引き込まれた。不条理といっても分かりにくいものではなく、ほんとうに「御伽噺」といった感じ。正直なところ、役者の、特に女優陣の演技がかなり酷くて、そういう点では観ていてしんどかったんだけど、それが残念だなと思えるくらいに面白いホンだったと思う。
ところが二度目に観たら、全体的にレベルがワンランク下がっちゃった感じがしてちょっとびっくりした。たった一晩で何があったんだと思ったくらい。女優の演技は多少ましになったかな、と思える人もいたんだけど、その代わり主人公の医者役がとにかくセリフを言えてなくて(噛む、トチる)、せっかくセリフがきれいな芝居なのに勿体無くてほんとうに残念。セリフが言えてなかったのは彼だけじゃなくて全体的に噛み噛みでほんと酷かった。演出の面でも、前日にはなかった踊るシーンが増えてたり(「わら半紙」を追いかけながらバレエのように踊るシーンは前日にもあったんだけど、振りが増えてた)、なんでこんな余計なことをするんだろうと見ていてイラっとした。
アフタートークで「他の演出家に演出させてみたいと思った」という意見がちらほら出て、その場では「そう思わせるくらい魅力的なホンだった」という話で纏めてたんだけど、実際のところは「他の演出家に演出させてみたいくらい演出が未熟だった」ってことなんだと思います。だいたいこのコンクールは「劇作家コンクール」じゃなくて「演出家コンクール」なわけだから、ホンがいくら面白くても…っていう部分はあるんですが。もし「演出」を見た場合、音楽の使い方や音だけ聞こえてくるテレビ、照明の当て方など、きれいに纏まったスタンダードな演出である一方、唐突に「バンザーイ!!」と叫ぶなどの演出はものすごく雑で幼稚に感じた。まだ演出家のスタイルが定まってないのかも、と思ったり。
この物語のキーポイントは「体に空いた穴」とそれを「塞ぐ」というあたりだと思うんだけど、これを「日本」のことだと捉えた審査員がいたんですが、私はその意味がちょっと理解できなかった。もちろんその「穴」が何であるのかはどう捉えようが観客の自由、その審査員の想像力がそれを「日本」と捉えたんだったらそれはそれで構わないっちゃ構わないんだけど。なんか演劇を難しく、社会派に、高尚に捉えよう捉えようとしている感じが見えて(その審査員は「わかりやすい演劇なんかやる価値ない」と思っておられるようで。)「別に高尚なばかりが演劇ってわけでもないだろうに」と思うのですよ、私はね。この芝居に出てくる「穴」っていうのはごく単純に、人が感じる空虚さや欠落感のこと(主人公の独白でそういうようなことが言われるし、他の登場人物のセリフ「穴は埋めるためのものではない、それに向き合いその向こうに広がる風景をただ眺めるためのもの」というあたりからもわかる)と、もう少し生々しく男女の性のことを指してるんだと、私は理解しながら観てたんですが。だいたいアングラ演劇を揶揄してるとも取れるセリフが劇中使われてるのに、そんな日本や世界を視野に入れた社会派な芝居だとは思えないんだけどどうでしょうかね?
いろいろ書きましたがやっぱり2回観てしまったんだから好きでしたこのお芝居。一緒に観た友人に後で聞いたところによると『ゴドーを待ちながら』と同じだよ、ということだったんですけど、ゴドーは観たことないんで何とも。こういう雰囲気の物語なら間違いなく私の好みなんで、機会があったら『ゴドー』の方も是非観たい。