スロウライダー『アダム・スキー』

スロウライダー 第9回公演『Adam:ski』
2007.3.16(金)〜25(日)
三鷹市芸術文化センター・星のホール
作・演出:山中隆次郎
出演:山中隆次郎/數間優一/日下部そう(ポかリン記憶舎)/夏目慎也(東京デスロック)/渡辺いつか/金子岳憲(ハイバイ)/板倉チヒロクロムモリブデン)/村上聡一(中野成樹+フランケンズ)/山口奈緒子(明日図鑑)/竹井亮介(親族代表)
http://www.slowrider.net/index.html

17日、夜公演。









「怪物」といわれた、ある民俗学者が死んだ夏…。彼を愛し、集まっていた門弟の男たちは、書きかけの自伝を皆で完成させ、出版する計画を立てる。しかし、「先生」についての証言は、彼らの間で大きく食い違い、かつ、はたして「先生」とは誰だったのか?「先生」にとって自分は誰だったのか?男たちは激しい混乱に陥っていく。座礁する出版計画に、自伝を担当する編集者がさしのべた、ある提案…。それによって、彼らは「怪物」を造り出していくのだった…。
噂の初期ホラー作品、待望の再演。
(あらすじより)

すんごく面白かったです。やっぱりスロウライダーの作品好き。毎回(今回見るのは3作目)思うのだけど、ものすごく緻密に作られた世界がそれだけでもう居心地の悪い気持ち悪さで、心理に染み込んでくるような「ホラー」。今回も自分たちが作り上げた「先生」の幻影に、愛情と憎悪がかき乱されて、何が本当なのかどんどんわからなくなっていく、その過程を見せるのが巧い。本当に山中隆次郎という劇作家は構成が巧みだなあと毎回思う。古い椅子がきしむ音や窓から差すぼんやりとした光、音だけで表される大量の蛾など、ちょっとしたことがものすごく観客を不安にさせる。
スロウライダーは毎回役者もすごくいいのだけれど、今回も「先生」の一番弟子で恋人でもあった春洋役の日下部そうがすごくいい。短髪・色白・細身の体・細く整えられた眉・冷たく整った顔立ち…って、こう言ってはナンだけど「いかにも」な感じで、ものすごく透明感のある綺麗さでちょっとクラっとなった。冷たく傲慢なところから一転、弱々しい存在になっていくあたりの変化とかの表現も巧い。そして別府役の竹井さんが凄い! 巧い役者が変態的な役をやると半端なく気持ち悪いですね!(褒めてます) 腰の低さも傲慢な独占欲も、見事な役のふり幅。
それにしても、どろどろとした同性愛の暗い感情のせめぎ合いを、具体的な描写はほとんどないままによく描いているなあと思う。そこにあるのは明らかに男女間の愛情とは違うもの。淡々としていながらグラグラした、強い感情。この芝居は同性愛ものではまったくないけれど、同性愛というテーマにつかずはなれずの距離を保ったところに人間の恐怖が描かれている、というか。その匙加減が絶妙。しかも実在した人物をモデルにして、やりにくさもあったろうにじつに軽々とそのハードルを越えてるような印象の芝居でした。まあ実際にはすごく大変だったと思いますけど、この芝居作るのは。
ところでこの『アダム・スキー』はCoRich舞台劇術祭2007に参加しているそうなので、ご覧になって気に入った方は是非投票をば。