『わが魂は輝く水なり−源平北越流誌−』

『わが魂は輝く水なり−源平北越流誌−』
2008.5.4.〜27日
Bunkamuraシアターコクーン
作:清水邦夫
演出:蜷川幸雄
出演:野村萬斎/尾上菊之助/秋山菜津子/大石継太/長谷川博己/坂東亀三郎/廣田高志/邑野みあ/二反田雅澄/大富士/川岡大次郎/神保共子/津嘉山正種
http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/08_wagatamashii/index.html

23日ソワレ。
芝居のパンフレットとかあまり買わない方ですが(インタビューなどの文字情報に基本的にあまり興味が無い)今回は開演前に早々に買う。だって野村萬斎が…って書いてて気付いたけど、野村萬斎出演作はほぼパンフ買ってるかも…どんだけこの人のビジュアルが好きなんだ私。










最後泣きました。やー、ちょっと久々にえぐえぐするほど泣いた。なんかあんまり周囲で泣いてる人とかいなかったから恥ずかしくて必死に堪えちゃったけど。
父実盛(野村萬斎)を守ろうとする五郎(尾上菊之助)の姿が切なくてたまらなかった。若武者に成りすまそうとする実盛と、それを戸惑いつつも手伝う五郎のやりとりの可笑しさ(このあたりの野村萬斎の笑いの誘い方がこれまた絶妙。素晴らしい)、一転して迫る危機に必死で立ち向かうけど霊体ゆえにどうすることも出来ず、ただただ父を呼びつづける五郎にもう涙止まらず。
とにかく美しい舞台だった。ケラの『どん底』も美しいと感じた舞台だったけど、それとはまったく違う種類の美しさ。深い透明感のある舞台。描かれているのは狂気と野心と戦いだけど、そこに身を置く登場人物たちが己に正直であるという点で、基本的にはものすごく綺麗な魂の持ち主なのだろう、と想像させるから美しく見えるのかも知れない。その中でも、若くして死んだがゆえに高潔なままの五郎の静の美しさ、自分の感情の赴くままに前へ前へと進んでいく実盛の動の美しさの対比が素晴らしい。
それにしても秋山菜津子は具体的に美しかった! 正気なのか狂気なのか、本当なのか虚偽なのか、最後にはそもそも存在しているのか夢なのか、それすら曖昧。その曖昧なくせに「表か裏か」しかない、巴=義仲という複雑なキャラクターを演じて見事。あと、長谷川博己演じる平維盛が、キャラとしては地味ながら強烈な印象。貴族らしい鷹揚さと能天気さ、言ってることは至極公平でまっとう、名君なのかどうかは微妙だけどたぶんこの殿のためなら命をかけるんだろうなあ部下の武将たちは、っていうのが伝わってくる不思議キャラ。面白かったな維盛。
野村萬斎尾上菊之助も、身体を使うことに馴れていて、身体表現の世界に身を置いてる人であるという強みがすごく活かされたキャラクターだったと思う。ふわりとした白の薄絹を纏った五郎は、霊体という存在の不自然さをして実に自然に物語に溶け込んでいたし、五郎の姿が見えないと途端に不安になったり戦況と己の先行きに焦ったりという、実盛の剛毅なだけではない感情も野村萬斎は見事に客席まで届けてくれた。実盛は、笑いとやんちゃさが身についているこの人だからこそ魅力的に出来上がったキャラクターだったと思う。
やあもうほんと、まんぞく。何でもう一回くらいチケット取らなかったかなあ。