ハイバイ『て』

ハイバイ本公演『て』
2008.6.18(水)〜23(月)
下北沢駅前劇場
作・演出:岩井秀人
出演:金子岳憲 永井若葉 岩井秀人(以上、ハイバイ)/能島瑞穂(青年団)/町田水城(はえぎわ)/平原テツ/吉田亮/高橋周平/折原アキラ/上田遥/猪股俊明/古舘寛治(青年団・サンプル)
http://hi-bye.net/

21日、ソワレ。初ハイバイ。










劇場の中央に舞台、その左右に客席。上手と下手には、役者の控える空間と着替える空間、小道具を置いておく空間が丸見え状態。駅前劇場をこんな風に使ってるの初めて見た。
シーンは教会での葬式から始まる。死んだのはおばあちゃん。時間は行きつ戻りつして、暴力的な父親に支配されたある家族の一日が語られる。
とにかく構成と脚本の上手さが素晴らしい。「その日その場で何があったのか」が語られ、次いでその同じ場面が違う視点で描かれる。その中で兄弟4人と母の思惑が見えてくる。「同じシーンを繰り返す」という手法は、飽きて途中でうんざりしがちなんだけど、「ああこの人はこういう風に考えていたのか」「こういう経緯があったからああいうことになったのか」といちいち納得させられていくので、一種の謎解きを見てるようでぜんぜん飽きずに引き込まれた。はじめ長男のたろうが冷血人間で家族の和を乱しているように見えるんだけど、その実ずっとおばあちゃんの側にいて介護を手伝っていたのはたろうであることがわかる。それがわかると彼の他の兄弟への苛立ちが理解できる。心が離れてしまった家族をまとめようと必死になっている長女のよしこが実は一番利己的であることがわかる。夫と離婚したくてもできない母は、夫に別れ話を切り出した後に「孤独のうちに死ね!」と言い放つが、実は別れることによって今までの家族の苦痛が夫の中で「チャラ」になるのが許せない。みんながみんなのことを思いやり、それは決して嘘ではないんだけど、相手の思惑とすれ違いを重ねて分かり合えることがどうしてもできない。そんなもどかしい崩壊家族、その再生を描いたわけでもなく、でもきっと喧嘩や諦めを繰り返しながらこの家族は家族のままなんだろう、というラスト。あまりにやりきれなくて途中何度か涙出そうになりました。でも笑えるシーンも散りばめられていて(葬儀屋2人と牧師の存在がいい具合に笑いを引き出している)、芝居全体は決して重い印象はない。匙加減がうまいなあと感じる。
岩井さんの脚本は今回観るの2回目。前に親族代表ライブで観た「コンビニ(または謝罪について)」というコント(?)のときも感じたんだけど、「噛みあわない会話」が絶妙に上手い。言葉を発した人間とそれを受けた人間の、言葉の解釈のズレがイライラするほど重なって着地点が見えなくなっていく。たぶんイライラするからこういう芝居キライ! って人も少なくないんだろーなあと想像できますが、少なくとも私はこの粘着質な芝居がたいへん面白かったです。なんか、30代前半の若さでこのテの家族ものが書けるってすごいなーと、この作家に興味しんしん。
というわけで劇作家・岩井秀人の今後の活動がたいへん気になるんですが、それと同じくらいの情熱でもって役者・岩井秀人がきになる…! なにしろ今回の母通子役が凄かった。特にものすごく女役を作っている感じじゃないのに、ごく自然で「いるいる、こういうオバサン」というリアリティ。泣き崩れるシーンや明るい家族の幻影にうれし泣きするシーンなんかはほんとに貰い泣きするイキオイで感情移入してしまった。次回出演作観に行ってしまおうか…つか次回ハイバイ公演は間違いなく観たいと思います。