スロウライダー『クロウズ』

スロウライダー最終公演『クロウズ』
2009.2.7(土)〜15(日)
新宿THEATER/TOPS
作・演出:山中隆次郎
出演:大村彩子/中川智明/岡村泰子(きこり文庫)/池田ヒロユキ(リュカ.)/星耕介/シトミマモル/高見靖二(チャリT企画)/田中慎一郎/吹田早哉佳/中川鳶/徳橋みのり(ろりえ)/奈実   芦原健介/數間優一
http://www.slowrider.net/?page_id=5

2006年に『トカゲを釣る』を観て以来、毎公演欠かさず観てきた劇団でしたが今回の公演を最後に解散とのこと。観てきた中では『手オノを持ってあつまれ!』がいまいちだったのを除けばどれも私好みで面白かっただけに残念でならないです。実力ある劇団がひとつ消えたなあ…










面白かった! けど、最高傑作とはならなかったなあ、というのが感想。「現代ホラー」と評されることの多い作風のスロウライダーだけど、今回はビジュアル的にもう「ゾンビもの」という明らかなホラーだったので、そこにひきずられてしまっていつもの「心理的に迫ってくるじりじりとしたイヤな感じ」や「後味の悪さ」といったあたりが、感じないわけではないんだけどわりとライトで、ビジュアル的な怖がらせ・気持ち悪さのわりにあまり怖くなかったといった感じ。そういう点から言えば、私が観始めた『トカゲを釣る』から去年の『トカゲを釣る・改』、そして今回の『クロウズ』と、心理的に迫るホラーからビジュアル的にも怖いホラーへと、作風が少しずつ移行してってるのかなーと、今回改めて過去作品のタイトルを眺めながら思ったりしました。

あらすじは、サイトから抜粋すると以下の通り。

未知のウィルスの脅威にさらされた世界。
ウィルス感染者と非感染者間で勃発した内戦は
非感染者側の勝利によって、収束にむかいはじめていた。
しかし、いまだ感染者が圧倒的勢力を保持する島があった。
―――南海の孤島、鯵瑠島(あじるしま)。
非感染者の島民から依頼を受けた県職員の湊は、
感染者を殲滅するため、仲間とともに島に潜入するが…。

この「ウイルス感染者」っていうのが、感染すると一端死んで、その後死体ながらに復活、非感染者に噛み付くとその人も感染…というベターな感じの「ゾンビ」のこと。開演してすぐに「えーウイルスもの(食傷気味)、しかもゾンビもの(興味なし)…どうなのソレって…」と不安にかられましたが、そこはさすがのスロウライダーで単なるゾンビ恐怖ものではなかったので、そのあとはどんどん引き込まれて、二時間を飽きることなく観られました。ゾンビとなりつつも「生きている」以上は人間らしくありたいと願い、人権を主張するゾンビ(作中では「クロ」という名称で呼ばれる)やその支援者たちVS「世界は生きている人間たちのもの」と主張し彼らの殲滅を図る非感染者たち、という構図の中で、「人間らしい心」や「人間らしい生き方」、そして非感染者たちのエゴが浮き彫りになっていくという、皮肉のきいた脚本はさすがだなーと思った。しかし先述したように、ビジュアル的に「ゾンビ」という恐怖があるので、彼らの葛藤のジリジリした部分は、おそらく作者が意図したほどには滲み出てきていなかったような気がします。あと、クロたちを支援している「ウロコ」というカリスマの存在と彼女自身の弱さといったあたりの描き方がやや中途半端で、全体的なストーリーをぼやけさせてしまった気も。彼女が手にしていたオブジェ的なステッキは演出上必要だったんだろか…
しかしゾンビとなりながらもコミューンを形成して仲良く暮らすクロたちが和気藹々と会話をするあたりとか、ほんと、山中さんの脚本らしくて楽しかった。スロウライダー作品の中ではかなりコメディ色強かったんじゃないだろうか。感染者殲滅のために島に潜入した県職員の湊が、コミューンに属さない一匹狼のはぐれゾンビ・通称ヤフーに噛まれてゾンビになっちゃったときも、クロたちが「クールビズ」というあだ名をつけて(クロたちは仲良しさんなのであだ名で呼び合う)「公務員ぽーい!」とはしゃぐあたりとか、非感染者でクロたちの人権擁護を訴える人権活動家の女が「そのファッション…藤原紀香気取ってんだろ!!」と罵られるあたりとか、ヤフーの妻でクロの一員であるシマコが夫に向かって「あなた…野良ゾンビやめて…」と訴えるあたりとか、存分にニヤニヤさせていただきました。野良ゾンビて。
舞台セットは今回も見事で、照明の使い方や不安をかきたてる地鳴りの音などの効果も良かったし初日にして作品の完成度も高かったし、やっぱり解散するのは惜しい劇団だなあと思います。残念だ。