シャーロック・ホームズの新冒険

パスティーシュっていうのは、「あのコンビを真に魅力的に描けるのはコナン・ドイルしかいない」ということを再認識するための、シャーロキアンの儀式みたいなもんなのかも知れない。…なんてことをちょっと考えたり考えなかったり。正攻法のパスティーシュあり、ずいぶん滅茶苦茶な作品あり…といった、ごっちゃ煮アンソロジーの一冊。
下巻に収録の戯曲風作品「ワトスン博士夫妻の家庭生活」が、ワトソンの扱いが相当酷いですがちょっと楽しくて好きでした。副題つけるなら「ジェイムズの謎」ってとこでしょうかね。会話の中に次から次へと原典のキィワードや登場人物名が出てきてそれだけでニヤニヤしちゃう一編。同じく下巻収録の、大御所スティーヴン・キングの「ワトスン、事件を解決す」が、トリック云々よりも文体が――というかワトソン、ホームズ、そしてレストレイドという3人の人物描写が、原典をうまく踏襲しつつも独自性を強く感じさせるもので非常に面白かった。はからずもホームズより先にトリックを見抜いてしまって現場の主役になってしまったワトソンの戸惑いと興奮が、事件の経緯よりも手に汗握る。(ただし冷や汗) そんでそれを見守るホームズもいいわ。素敵だわ。シャーロキアン(わざわざパスティーシュなんかを読む人たち!)のための楽しいコネタもちゃんと仕込まれているし、しゃれた一編。